議事録
【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。参考人の皆さん、本日は貴重な御意見ありがとうございました。
まず、牧原参考人、本多参考人に伺います。改正案は、第十四章を作り、一連の新しい関与の仕組みを設けています。第二百五十二条の二十六の五の補充的指示が注目をされていますが、その前、まず二十六の三、二十六の四についてお聞きしたい。
二十六の三、資料及び意見の提出の要求の主語は、各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関となっていて、二十六の四、二十六の五が各大臣となっているのとは違います。二十六の三において、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態又は発生のおそれがある場合であることを認定する権限を持つのは一体誰になるのか。なぜ各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関としたのか。また、生命等の保護の措置を講じるために必要と認めるときは資料の提出、これは元々現行法にも、類型にありましたが、意見の提出要求が関与として加わります。この意見の提出要求はどういう必要性から入れられているのか。
本多参考人、牧原参考人の順でお聞きできればと思います。
【本多滝夫 龍谷大学法学部教授】 質問ありがとうございます。この二百五十二条の二十六の三は、確かに他の特例関与に比べますと若干異質なところがあるかと思います。
御質問は、この各大臣が資料の提出を求めることができる、そして都道府県知事その他の都道府県の執行機関が資料の提出を求めることができるという、主語が二つあるということにつきまして、それぞれがこの国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に関する認定権を有するんじゃないかということですけれども、この条文を素直に読む限りはそうだとしか言いようがありません。
ただ、こうしたときに、じゃ、後の例えば二十六の五になったときに、今度は各大臣のみが指示に関する補充的認定権を持つということですと、この指示は、普通、各大臣にしか認めない指示権ということなので、ここは各大臣ということになりますけれども、そうなりますと、いきなりこの二百五十二条の二十六の五の重大影響事態が生じ、あるいは生じるおそれがあって指示が来るというわけじゃなくて、その前提に、当然、そのまだ資料の提出であるとか意見の提出を求める、そういう段階があるのではないかというふうに考えますと、そうすると、都道府県知事の方は、いや、そういう事態ではないというふうに考えているにもかかわらず、大臣の方が、いや、もうそのような事態なんだと、次にこの措置を講ずる必要があるから資料の提出を市町村に対して求めたいというようなことを考え、またその旨を都道府県知事に対して指示をするというと、ここは相矛盾することになるのかなというふうに思います。
ただ、そのときの調整権として、都道府県知事に対する大臣の指示につきましては、これを法定受託事務というふうに、今、後の、地方自治法の今度の改定の二百九十八条のところでその条文が付け加わるということで調整が図られるということになるのではないかと考えております。
それから、もう一点の意見の提出を求めるについてはどうかという点ですけれども、これは地制調の答申の中で、こうした事態における自治体からの情報といったものは必要だという、そういうことから、あえてこのような新しい関与といったものを設けたものだというふうに思います。
この意見の提出の求めにつきましては、これは正直言って、意見を出せるか出せないかでは、まさにこれは非代替的な作為義務であります。作為、非代替的なものなので、これは強制しようにも強制しようがないという趣旨でこの限りにとどめられているということですけれども、もしこういうようなものが必要であるのならば、これは関与の基本類型といったものの方で改めてもう一度考え直す必要があるのではないかと思います。以上でございます。
【牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授】 私もこの条文については、まだ、この条文の準備した側ではございませんので、私の考えを述べれば、やはり、いわゆる国民の安全に重大な影響を及ぼす事態において、都道府県も市町村等にその意見を求めていることはできるということだと思います。
それはやはり、その後の事務処理の調整の指示を受けたときなど、都道府県の側から一定の、都道府県の側が一定の対応をする必要がある場合が出てくるということもあって、そういう情報共有を努めているということだと私は認識しております。
やはり、意見の提出、意見表明ということを通じて、国、都道府県、市町村で可能な限り情報を共有した方が、指示をするかどうかにかかわらず対処できるということではありますので、そういう意味で、この条文が有用であるということが望ましいのではないかと思います。
【伊藤岳 参院議員】 牧原参考人、本多参考人にもう一問伺います。
同じく同条二十六の四、これ事務処理の調整の指示についてですが、各大臣は、その担任する事務について、生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため、事態に係る都道府県について、市町村を超える広域の見地から、都道府県と市町村の調整を図るために必要な措置をとることができると規定されています。
この広域的な調整ですが、例えば、三日に政府は先島諸島の避難計画案を発表しましたが、こういうことも入ってくるのか。この規定がなぜ必要だと考えられるか。また、二十六の三、二十六の四でも関与の規定が動き出すということが想定できるわけですが、二十六の三又は二十六の四については、都道府県、市町村はこれ拒否できると読むことができるんでしょうか、それとも拒否できないと読むのでしょうか。牧原参考人、本多参考人、お願いします。
【牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授】 広域の見地というのは、その都道府県、各都道府県内で、の中で市町村を超えた事態が生じた場合に、都道府県が調整をするように国が指示をするということであろうと考えています。ただ、これは、ここで想定されている事態が、今お話しになったような先島のような事態と関係するとは私は考えておりませんので、やはり、これは将来、先ほどもお話ししたような、かなり限られた非平時においてそういうことが必要になるかどうかということであろうと思います。
拒否できるかどうかということに関しては、事実上の拒否は私は幾らでも可能だろうと思っています。ただ、法律上、それを拒否した場合、どういうその次の局面が進むかということは問題になるわけです。例えば、先ほどの一斉休校のような、仮にそういう指示が出た場合ですが、翌週なので、翌週その休校するかどうかを決めるときに拒否すれば、これはもう裁判になったとしてもそれはもう間に合わないわけですよね。その裁判も、仮に裁判になったとしてもそれは間に合わないということになりますから、この場合は拒否は恐らくできてしまうということで、緊急性がある場合には私は事実上の拒否というのは十分あり得ると思います。
ですので、国はその拒否がないように指示権を行使する必要があるということになりますから、そうであるならば、多分にその拒否が受け入れられるような、失礼しました、指示が受け入れられるような形でのその指示権を行使する必要があるということです。
【本多滝夫 龍谷大学法学部教授】 私自身、この二百五十二条の二十六の四は、いまだに何を考えているのかというのは非常に分かりかねているところでして、今議員がございました先島の事例というのはどうかなと。ちょっと私も考えていません。
ただ、私が今考えているのは、重大な影響事態が生じたときに廃棄物が生じるといったようなことがあって、これは、東日本大震災のときに特別措置法が出て、県域を超える処理につきましては特措法でもって対応しておりますけれども、一般的なごみ処理につきましてはそうした規定はないわけでして、そうしますと、一定の武力攻撃事態等とかそういったときに、災害廃棄物ですかね、広い意味では、そういうものが大量に発生をするときに、私が見る限りにおきましては、現行の廃棄物処理法では、国、自治体相互間の協力はせよという規定はあるんですけれども、調整に関する規定は、ちょっと、直ちにちょっと見付けることはできなかったんで、そういったことのときに使うことが可能かなというふうに考えております。そうすると想定できるので、また廃棄物処理法で考えていただければいいのかなというふうに思いますけど、それはおきまして。
その指示についてはどうなのかという、この調整をせよという、するために必要な措置を講ぜよということでして、これは、大臣が都道府県知事に指示をしたら、これは先ほど言いました法定受託事務になってしまいますので、当然、その調整事務をしない都道府県知事についてはその義務が発生しているということになりますので、しかし、だからといって代執行が可能なのかというのはちょっと分からないですけれども、そういう性格のものかどうか分かりませんが、いずれにしろ、そうなると思います。
ただ、調整を働きかけられている自治体、市町村にとりましては、これは義務というわけではありませんので、したがって、まさに調整ですから、双方向の意見の提出と協議に基づいて合意した範囲内で行われるということになります。
そうなりますと、これ実際に今でもやろうと思えばできたわけですし、コロナ禍におきましても、例の病院調整におきましても、その後、感染症法等で手当てが、指示ができると、手当てがされましたけれども、でも、当時におきましても相互に情報交換しながら調整を何とかしてきたわけでして、若干、初めてということであって、ぎくしゃくしたことはあったかというふうには思いますけれども、それはしかし、想定し難い事態においても同じようなことがやっぱり出てくるわけですから、そこについて調整を、例えばその指示として調整させるとかいったことはどこまで必要性があるかどうかは私は疑問に思うところです。
以上です。
【伊藤岳 参院議員】 小原参考人と本多参考人に伺います。
総務省、これ大臣の答弁などでも、この間、自治法上の自治事務に関する指示について、こう答弁しているんです。国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合を除き設けてはならないとあるが、そのうち緊急にとは、特に必要と認められる場合の例示として、例示として規定されていると説明をしているんです。
この改正法案において、緊急性を関与の要件にしなくてもいいというような姿勢を総務省の答弁で読めるんですが、この点について、小原参考人、本多参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
【小原隆治 早稲田大学政治経済学術院教授】 ありがとうございます。
私は、もう端的に申して新設の第十四章は要らないと思っておりますので、そもそもどういう規定をするかという、その規定自体も要らないという、全体が要らないので、というふうに思っておりますけれども。
それで、その自治事務に対しての関与ということに関して、繰り返しになりますが、結局、それは新十四章で新しい特例的関与はできましたけれども、その後、指示に従う、従わなかった場合にどうなるのかということは、それは既存の、現在でいいますと、第十一章でしたっけ、関与の類型で定められているそのとおりということでございますので、違法確認訴訟があり、自治事務の場合は代執行すらできない、しかしそんなことしていれば緊急事態には間に合わないという、そういう話かと思います。
以上でございます。
【本多滝夫 龍谷大学法学部教授】 地方自治法二百四十五条の三の第六項に緊急性の要件が加わっているということですから、これにつきましては、例示ではないかということですが、地方分権推進計画の段階におきまして、自治事務に対して指示を設けることについては二ないし三つのメルクマールを、ありまして、その中には、国民の生命、健康、安全に直接関係する事務の処理に関する場合であるとか、広域的な被害の蔓延防止の観点からの事務の処理に関する場合であるとか、あるいは、その他個別の法律における必要性から特別に国が指示することができる場合というふうになっていたわけです。
このメルクマールに従って個別の法律で指示権が一応つくられているということになっているわけですが、しかしながら、地方自治法の一般ルールとして定めるところについて、このような分権推進計画の後にできた条文においてあえて緊急性を設けているといったことは、各条文の指示におきましても緊急性といったものが当然求められているし、求められるべきだと思いますし、全てを先ほど挙げている指示について見ているわけではありませんけれども、中にはやはり、実質的にやっぱり緊急性を必要としているというようなものについて指示が設けられているというふうに私は見ております。
以上でございます。
【伊藤岳 参院議員】 ありがとうございま