議事録
【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。
冒頭、地方自治法は地方自治についての基本法であります。特に、本改正案には地方議会と地方議員、会計年度任用職員の処遇に係る改正が含まれており、三時間足らずの審議で済ますことには問題があることを指摘し、質問に入りたいと思います。
改正案で新設するとしている第八十九条二項は、議会は、当該普通地方公共団体の重要な意思決定に関する事件を議決し、並びにこの法律の定める検査及び調査その他の権限を行使すると明記するとしております。
大臣、法文で明定すれば、では何が重要な意思決定なのか、重要でない意思決定があるのかと議論を招くことになるのではないですか。法文にすべきではないと思いますが、見解どうですか。
【松本剛明 総務大臣】 改正後の地方自治法第八十九条第二項は、議会の役割について、地方自治法に定められている議会の権限を確認的かつ網羅的に規定するものです。
地方公共団体の意思決定については、執行機関である長限りで決定し、事務を執行できるものがある一方で、条例や予算など重要な事項については議会の議決により団体意思が決定されるものであり、これらを重要な意思決定と総称したものでございます。
また、地方制度調査会の議論では、議会の位置付け等を規定する場合、令和二年十一月二十五日の最高裁判決が規定ぶりの参考になるとの意見があり、令和二年の最高裁判決では、議会の権能について、所定の重要事項について当該地方公共団体の意思を決定するなどとされていることも踏まえ、重要な意思決定に関する事件を議決しと規定したものであり、議会の権限の範囲を制約するものではございません。
【伊藤岳 参院議員】 制約するものではないとなれば条文化すべきではないと思います。根拠となるのは条文です。
第八十九条三項は、前項に規定する議会の権限の適切な行使に資するため、普通地方公共団体の議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならないとしています。
大臣、この誠実にその職務を行わなければならないの規定は、前項の重要な意思決定に関する事件を議決などを議会の議員がどれだけ職務を行っているかを判断して懲罰を科す根拠とはなりませんか。
【松本剛明 総務大臣】 失礼しました。
改正後の地方自治法第八十九条第三項は、あくまで職員が職務を、失礼、議員が職務を行う上での心構えを示すものであり、議員の新たな権限や義務を定めるものではありません。
一方で、地方自治法第百三十四条に定める議会の懲罰権は、会議体としての議会の規律と品位を保つため認められているものであって、懲罰事犯の対象となるのは地方自治法や会議規則、委員会条例に違反する議会内における議員の行為に限られます。
このため、あくまで心構えを示す改正後の第八十九条第三項が懲罰の理由になるものとは考えておりません。
【伊藤岳 参院議員】 この問題議論した第三十三次地方制度調査会第七回専門小委員会の配付資料で、一部の議会や議員による不適切な行為に関する指摘として、これ、千葉県議会の例として、議員の遅刻や早退、議会中の居眠りなどが列挙されています。
大臣、この議員の遅刻や早退、議会中の居眠りは、議員の心構えを法文化したものだと総務省は説明をしていますが、誠実な職務遂行義務の立法事実に含まれるものですか。
【松本剛明 総務大臣】 御指摘の資料は、第三十三次地方制度調査会第七回専門小委員会資料の中に示された資料で、参考として、議会や議員の不適切な行為等について報道されている事例として挙げられているものにあるものかと承知をしておりますが、地方制度調査会では、多様な人材の議会への参画を促進する観点から、三議長会の皆様から議員の職務の明確化について要望があったことを踏まえ、議論が行われました。
答申では、多様な人材の議会への参画に関して、まずは各議会において多様な人材の参画を前提とした議会運営、住民に開かれた議会のための取組を行っていくことが重要であると指摘されています。その上で、一部に住民の信頼を損ないかねない議員の行為も見られることを踏まえ、議会の役割や責任、議員の職務等の重要性が改めて認識されるよう、全ての議会や議員に共通する一般的な事項を地方自治法に規定することも考えられるとの提言がなされました。
改正後の第八十九条第三項は、この答申を踏まえ、議員の職務等について、全ての議員に共通する一般的な事項を確認的に規定するものであります。
【伊藤岳 参院議員】 立法事実に含まれるかどうかという明確な答弁ないんですね。
第百三十四条、議会の懲罰権には、地方自治体が定める条例に違反した場合も罰則の対象になると規定されています。八十九条第三項の挿入によって、地方議会が条例で誠実な職務遂行義務に反する具体事例、例えば居眠りなどを定めることは絶対ないと断言できますか。
【松本剛明 総務大臣】 先ほどの答弁に補足をさせていただきますと、御指摘の資料は、地方制度調査会の専門小委員会の審議に資するために事務局において準備したものですが、答申において、資料に示された行為が第八十九条第三項の立法事実として挙げられているわけではございません。
ただいまの御質問でございますが、改正後の地方自治法第八十九条第三項は、議員の新たな権限や義務を定めるものではありません。地方自治法第百三十四条に定める議会の懲罰権は、会議体としての議会の規律と品位を保つため認められているものであって、懲罰事犯の対象となるのは地方自治法や会議規則、委員会条例に違反する議会内における議員の行為に限られます。このため、あくまで心構えを示す改正後の第八十九条第三項が懲罰の理由になるものとは考えておりません。
その上で、各議会の議決を経て定める各会議規則や委員会条例において具体的にどのような行為を懲罰の対象とするかについては、第八十九条第三項の有無にかかわらず、各議会において判断されるべきものと考えております。
【伊藤岳 参院議員】 ですから、今大臣も言われたように、地方自治体の条例化を通じて、条例化によって懲罰の対象ということはあり得るわけですから、これが懲罰の拡大に悪用されないとは否定できないと思います。大きな懸念を持たざるを得ない、法文化はやめるべきだと思います。
第三十三次地方制度調査会第七回専門小委員会において、宍戸東大教授が懲罰の根拠になり得るような位置付けなのかと発言をし、法定することに対する疑問を呈しておられました。
総務省、この宍戸氏の発言について、その後、小委員会ではどのような議論が交わされ、この答申に至ったのか。議事録見ましたが、この議事録に記載されていることが全てですか。
【吉川浩民 総務省自治行政局長】 お答えいたします。
御指摘の第七回専門小委員会では、議員の職務等について、事務局から、仮に法律上規定するとした場合、令和二年最高裁判決等を踏まえて考えられる規定の内容のイメージの資料を提出したところでございます。
これにつきまして、宍戸委員から、懲罰の根拠になり得るような位置付けなのか、心構えであるとすると必ずしも直接的に懲罰の対象になるような規定ではないと思うが、確認したいという御発言がございました。
これに対し、事務局から、参考とした執行機関についての心構えの規定について、極めて当然の心構えを明らかにしたものであって、法律的義務というよりは、むしろ道徳的な要請とされており、議員の職務に関する規定をもって懲罰などの判断基準が変わるものではないと考える旨をお答えいたしました。
地方制度調査会における議員の職務に関する規定と懲罰との関係についての議論は以上のとおりでございまして、議事録に記載のとおりであります。
【伊藤岳 参院議員】 そんな議論で宍戸東大教授は納得されたんでしょうか。どうもこれ、議事録が全て記載されているとは思えません。
しかも、これ、その答申で、誠実にその職務を行わなければならないという規定が総務省で作文されるわけですね。本当に極めて飛躍した議論、結論だと思います。
そもそも、法案は、三議長会から、議員のなり手確保のために地方議会や議員の位置付けを地方自治法に明確に規定してほしいとの要望を受けてのものでした。三議長会は、自らの判断と責任においてその職務を行うと要望していましたが、答申では、誠実にその職務を行わなきゃならないというふうに作文をされました。立法過程に大きな問題があると指摘をしたいと思います。
議員のなり手確保を言うならば、議員報酬の引上げコストを求められているのではないかと思います。今日資料をお配りいたしました。共同通信社の配信です。
地方議会議長に行ったアンケートでは、議員のなり手を増やすための有効な対策を尋ねたところ、議員報酬の引上げが七七%でトップでした。では、実際に議員報酬はこの間どのように推移をしているのか。議員報酬は、都道府県も市も町、村も、平成十五年度以降令和元年度まで引下げが続き、その後、都道府県も市も町村も引き上がっていますが、平成十五年度の水準までには回復をしていません。つまり、二十年前よりも低い報酬になっているということであります。
また、国の財政措置である議員報酬の普通交付税単価の推移を見ますと、平成十五年度から令和元年度まで引き下げられ続け、道府県分でいえば十四・九万円の減、市町村分でいえば六・八万円の減となっています。令和二年度以降は引き上げられておりますが、平成十五年度の水準には回復をしていません。当然ですが、議員報酬と交付税単価の傾向はこれ比例をしてくるわけです。
大臣、議員報酬、普通交付税の単価が減額され続け、令和元年以降また若干増になっていますが、その要因は何なんですか。
【原邦彰 総務省自治財政局長】 お答えいたします。
まず、地方公務員給与実態調査結果による議員平均報酬月額でありますが、御指摘のとおり、十五年度以降しばらく減少傾向にありました。この減少は、行政改革に伴う議員報酬の見直しの動向等に伴うものではないかと考えておりますが、近年は増加傾向にございます。
交付税の単位費用の積算に用いている議員報酬単価でありますが、この地方公務員給与実態調査の結果等を踏まえて設定しており、かつては減少傾向にありましたが、近年は実態を踏まえて増額しており、令和五年度も増額をいたしております。
【伊藤岳 参院議員】 実態を踏まえてという話がありましたが、つまり、要は、集中改革プランで国が地方の職員削減を具体的な数値目標を持って行ってきた、その職員の給与実態をにらんで議員報酬単価が措置されてきた、つまり、議員報酬単価の上がり下がりというのは、国の施策を地方に押し付けて、職員の削減、地方行革を推進してきた国の都合で決まっているということだと思います。しかも、今も、実際の議員報酬も財政措置である普通交付税の報酬単価も、二十年前さえ回復していないんですね。
大臣、三議長会は、活気ある地方議会を目指す全国大会で、小規模議会の議員報酬を適正な水準に引き上げられるよう財政支援を行うことと議員報酬の引上げを要望していますが、大臣、この三議長会の要望は御存じですか。
【松本剛明 総務大臣】 今御指摘もございました令和四年十一月に三議長会が開催した、住民の負託にこたえ、活力ある地方議会を目指す全国大会において、国に対する要望事項として、小規模議会の議員報酬を適正な水準に引き上げられるよう財政支援を行うことが決議されたことは承知をいたしております。その後、十二月には、三議長会の会長から私にも直接要望をいただいたところでございます。
【伊藤岳 参院議員】 大臣、三議長会の要望を受け止めているというのであれば、議員のなり手不足の解消が長らく言われ続けながら、普通交付税の議員報酬単価が二十年前と比べても低いという現状をどう考えますか。議員報酬の普通交付税単価の引上げを直ちに検討すべきではないですか。
【松本剛明 総務大臣】 はい。
先ほども局長から御答弁申し上げたとおり、普通交付税の単位費用の積算に用いている議員報酬単価は、地方公務員給与実態調査結果等を踏まえて設定することとしておりまして、近年、この議員報酬単価を増額してきているところでございます。
総務省としては、議員報酬については、各議会において、住民の十分な理解と納得を得るため、地域の実情を踏まえて十分な審議を尽くしていただき、適正な議員報酬の額を定めていただくことが重要と考えておりまして、議長会と連携しながら、様々な取組事例の紹介など情報提供を行ってまいりたいと考えております。
今後も、こうした取組や議員報酬の実態を踏まえ、適切に対応してまいります。
【伊藤岳 参院議員】 国の対応を強く求めて、質問を終わります。
以下反対討論
【伊藤岳 参院議員】 私は、日本共産党を代表して、地方自治法の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。
地方自治法は地方自治に関する基本法であり、特に、本法案には地方議会と地方議員、会計年度任用職員の処遇などに係る改正が含まれています。短時間の審議で済ますことには問題があることを指摘するものです。
本法案は、第八十九条第三項に、議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならないと加えます。
総務省は理念規定である第三項は直ちに懲罰の対象条文にはならないと説明しますが、法文化を契機に地方議会が条例で誠実な職務遂行義務に反する具体事例を定めれば懲罰の対象となり得るもので、反対です。
立法過程にも問題があります。
そもそも、第三十三次地方制度調査会で地方議会の役割及び議員の職務等の明確化を求めた全国都道府県議会議長会の主張の背景には、地方議員の職務に応じた処遇の確保があります。心構え規定ではありませんでした。しかし、総務省は誠実規定を提案し、委員からは法律で定めることへの疑問が投げかけられたにもかかわらず、その方向でまとめてしまったのであります。
さらに、第二項では、議会は、この法律、地方自治法の定めるところにより重要な意思決定に関する事件を議決するとしていますが、何が重要な意思決定なのかという議論を招きかねません。地方議会の議決対象をゆがめ、地方議会の役割の矮小化につながるという疑念が拭えません。
地方議会や議員の職務の在り方は地方自治そのものであり、本来、憲法の地方自治の本旨に基づき、住民自治と団体自治の原則の下、その地域の住民と議会が自らの問題として取り組み、議会での質疑、討論を活発化することなどによって議会の存在意義を明らかにし、その内容を豊かにしていくべきものであります。法律に議会の在り方などを書き込むという発想は地方自治の精神と相入れないばかりか、政府が地方議員の心構え規定を閣法で提案するという点も地方自治の本質に関わる原則問題を含んでいます。
なお、パートタイムの会計年度任用職員に対して勤勉手当の支給を可能とする規定の整備は、処遇改善に資する当然の措置であります。総務省マニュアルの改訂を始め、地方自治体の適正な運用を確保するために国は責任を果たすことを求めて、討論といたします。