議事録

2020年3月26日 総務委員会(市町村合併特例法の一部改正案)

【伊藤岳議員】

 日本共産党の伊藤岳です。市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律案について質問をいたします。今回の改正は第三十二次地域制度調査会の議論を受けてのものですが、この議論の中で全国市議会議長会会長の山田氏が、平成の大合併で周辺地域が疲弊化しているという批判もありながら、本当にこの辺の本格的検証がなされていないと述べられました。同じく野尻氏は、周辺地域の疲弊などマイナスの効果が生じていることも厳然たる事実であります、政府の責任で改めてトータルに評価、検証をと述べておられます。

 こうした合併による周辺地域の疲弊、これが平成の大合併がもたらした一つの側面でありました。だからこそ、地制調がどういう方向を示すかに注目が集まったし、この問題をしっかり評価、検証すべきという主張がありました。

 今日、資料を用意しました。資料一を御覧いただきたいと思います。これは、東京新聞の二〇一九年十一月の七日付けの報道です。日弁連の有志が行った調査結果の報道、先ほど吉田議員も取り上げられましたが、合併した自治体は合併に加わらず存続した近隣自治体に比べて人口減が加速傾向にあるという報道です。例えば、大臣の地元奈良、この図にもありますが、合併をした大塔村は五七・五%の人口減ですが、合併に加わらずに存続した野迫川村は三九・六%の人口減と、それなりに持ちこたえています。資料二を御覧をいただきたいと思います。同じ日の朝日新聞の報道です。合併した自治体の人口減の要因について、日弁連の有志の分析を載せています。その分析の中心点は、役場の縮小で公務員人口が減って役場機能が小さくなった、そうすると、役場の周辺の飲食店や宿泊業の需要減になって、その地域の就業者数も減ったと分析をされている記事です。

 大臣にお聞きします。こうした合併による周辺地域の疲弊を政府がしっかり評価、検証してほしいという地方の声、どのように受け止めておられますか。

 

【高市早苗総務大臣】

 先ほど資料でお示しいただいた旧大塔村と五條市の例でございますけれども、ここ、元々合併前から人口が減っていた村でございますが、今、五條市長がリーダーシップを取って、陸上自衛隊の駐屯地、奈良にはございません。非常に、南部の方、災害も多うございますので、それを誘致しようと頑張っておられる中で、自衛隊員の方が定年退職をされた後に働く場所をつくるということで、この旧大塔村の地域など山間部の方で、また林業始め様々な定年後に働ける場所を用意しようということで取り組んでおられます。

 確かに、平成の合併につきましては、様々な課題、それから成果も含めてでございますけれども、把握をしてまいりました。最初は、平成二十二年に平成の合併についてと題しまして、その時点における平成の合併の評価を取りまとめ、公表しました。その後も、累次の地方制度調査会で、この基礎自治体の在り方などの調査審議に際して、合併の成果、課題が取り上げられておりまして、現在の第三十二次地方制度調査会においても同様でございます。今後も、しっかりとこの合併、市町村のお声をよく伺いながら、市町村の状況、課題というものをきめ細やかに把握するように努めてまいります。

【伊藤岳議員】

 働く現場の確保などの大塔村の努力、自治体の努力、本当に貴重だと思います。同時に、今大臣も言われたとおり、人口減などは政府も認める焦眉の課題になっていると思います。

 この役場機能の縮小による弊害は、私の地元埼玉でも現れています。さいたま市では、災害発生時の避難所運営を、合併当初は新市、新しい市の市役所が担うことになっていました。しかし、東日本大震災の教訓も踏まえて改めて計画を策定するときに、全市で二百五十九か所に上る避難所運営を、職員が減ってしまった新しい市、新市の市役所で担うことは困難という結論になりまして、区役所が担うこととし、区役所機能を強化することになりました。政令市なので区役所機能の強化ということになりますが、言わば合併で失われた役所機能を補う支所機能の強化が必要になったという事例であります。

 総務省に伺います。合併時点では想定されなかった財政事情が生じたと、二〇一四年から五年程度掛けて地方交付税算定の基準財政需要額を見直して交付税を増額をしていますが、その想定されなかった財政需要が生じたとは何のことを指しますか。また、どれだけの交付税の増額措置をしたのでしょうか。

 

【内藤尚志政府参考人】

 お答え申し上げます。合併算定替え終了後の交付税算定につきまして、平成の合併によります市町村の面積が拡大するなどの市町村の姿が大きく変化したことを踏まえまして、支所に要する経費を加算をする、あるいは旧市町村単位の消防署、出張所に要する経費の加算をする、あるいは旧市町村単位の保健福祉に係る住民サービス経費の加算をするなど、平成二十六年度以降五年間かけて普通交付税の算定を順次見直してきたところでございます。これらの見直しによりまして、合併市町村に対しまして六千七百億円程度が措置される見込みでございます。

 

【伊藤岳議員】

 役所が失われたことによる想定を超える弊害が生じて、支所の強化、消防出張所の強化などが必要になったということが今お話がありました。政府は、平成の大合併で、行政の効率化や歳出削減効果を通じて、地方交付税などは約九千五百億円の減額ができると見込んでいましたが、しかし、今お話があったように、実際は支所機能の強化などで六千七百億円、約七割の増額措置になったということであります。

 消防出張所の経費を算定したという話がありましたが、この消防出張所に要する経費を見直すことになった、交付税を増額することになった、その理由はどのようなものでしょうか。

 

【内藤尚志政府参考人】

 お答え申し上げます。合併後の市町村の姿の変化を踏まえた交付税算定の見直しといたしまして、消防署、出張所に要する経費について、旧市町村ごとにその人口に応じて消防署、出張所の維持に必要な経費を算定し、これを合併団体の基準財政需要額に加算することといたしました。

 これは、消防署、出張所が国民の生命、身体及び財産を保護する消防、救急事務の担い手であるという性格上、合併による統廃合は困難であるという実態を踏まえまして、旧市町村ごとに消防署、出張所が存在するものとして、その経費を算定することとしたものでございます。

 

【伊藤岳議員】

 保健衛生や福祉の分野での経費の見直し、交付税の増額、それはどういう理由によるものでしょうか。

 

【内藤尚志政府参考人】

 お答え申し上げます。これらにつきましても、旧市町村単位で保健センター運営費等の保健福祉サービスに要する経費が掛かるということで、その経費を算定したものでございます。

 

【伊藤岳議員】

 効率化できない住民サービスがあると、特に旧市町村単位でと、強化が必要になったというのが合併後見えてきた課題だということだと思います。支所機能の強化、また消防、保健衛生、福祉など、住民自治の拡充のための支援の必要性が見えてきたというふうに思います。

  平成の大合併から十年以上がたちました。地方自治体が担う役割は大きくなってきています。例えば、毎年のように頻発する大規模災害から住民をどう守り支えるのかという課題も直面していますし、今回の新型コロナウイルス対策のように、地域の公衆衛生、感染症対策も一段と求められています。その際、支所機能の強化などは一つの焦点だと考えます。そうした点からも、平成の大合併による周辺地域の疲弊についての評価、検証が必要だと私は考えます。

大臣、今後も、支所機能の強化、消防の強化を始め、必要な財政支援が生じたときに必要な対応を講じていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

 

【高市早苗総務大臣】

 平成の合併に伴って市町村の面積が拡大するなど、市町村の姿が大きく変化したことを踏まえての普通交付税の算定見直しについては、先ほど来、内藤局長から説明をさせていただいたとおりです。

 よって、現時点では合併市町村に対する必要な財政措置は講じていると考えておりますけれども、今後も、地方の御意見をよく伺いながら、合併市町村の状況を踏まえて必要な支援を行ってまいります。

【伊藤岳議員】

 是非、経過見ながら必要な措置を講じていただきたいと思います。次に、特例法の今回の改正の仕組みについてお聞きをします。まず確認をしたいのですが、合併について今後は国から強制、誘導はしないということでよろしいでしょうか。

 

【高原剛政府参考人】

 御答弁申し上げます。今回提出しております法律案は、自らの判断により合併を進めようとする市町村を対象として、引き続き合併の円滑化のための措置を講じることができるよう現行法の期限を延長するものであり、合併を強制、誘導するという立場には立ってございません。

 

【伊藤岳議員】

 今後の合併は自治体の判断を尊重するということを確認しておきたいと思います。今回の改正案には、第四条で、有権者の五十分の一以上の署名で合併を発議できるというこの規定がそのまま残されています。総務省にお聞きします。なぜ有権者の五十分の一という規定なのでしょうか。

 

【内藤尚志政府参考人】

 御答弁申し上げます。地方自治法の直接請求を行うに際しての必要署名数は、請求の内容、請求後の措置の内容を総合的に勘案して定められております。合併協議会設置の請求における必要署名数については、請求の内容が市町村の合併そのものを求めるものではなく、その前段階である合併協議会の設置にとどまるものであること、直接請求を経て合併協議会を設置するに当たっては最終的に関係市町村の議会の議決を要することなどを勘案して、有権者の五十分の一以上とされているものと承知をしております。

 

【伊藤岳議員】

 合併の前段階だという話がありましたが、しかし、自分たちの住む自治体を存続させるのかなくすのか、言わば自治体の生き死にを問う過程の署名になります。首長や議員の罷免発議は、議会の解散、議員の解職、首長の解職など、どれも有権者の三分の一以上の署名を求めています。自治体の生き死にを問う発議が僅か五十分の一、これは合併推進側だけに有利な仕組みではないかと思います。

 改正案の第五条では、合併協議会の設置が議会で否決をされても、首長の請求若しくは有権者の六分の一以上の署名で合併協議会設置の住民投票請求ができることも規定で残されています。総務省、前回の改正後十年間で七件の合併が成立をしましたが、その中でこの合併協議会設置の住民投票請求、つまり、合併協議会の設置が議会で否決されてもこの住民投票請求ができたという自治体はあるのでしょうか。また、あるとすればどれぐらいでしょうか。

 

【内藤尚志政府参考人】

 御答弁申し上げます。現行法下の七件の合併のうち、有権者の六分の一以上の者の連署をもって請求された住民投票の結果、合併協議会が設置された件数は、栃木県栃木市と岩舟町の合併の一件でございます。

 

【伊藤岳議員】

 住民の代表である議会の議決をこれひっくり返してしまうという仕組み、これはちょっとゆがんでいると思います。合併を推進する側だけに付与された仕組みが残されています。合併推進に偏った仕組みが並んでいると私は考えます。以上、合併特例法改正案には反対であることを述べて、質問を終わります。