議事録(未定稿のため今後変更される可能性があります)
【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。
放送をめぐっては、インターネットの進歩、その一方で、フェイクニュースの氾濫、また現場でのハラスメントや性暴力の発生などなど、健全な民主主義や公共福祉に寄与する公共放送としての役割が今大きく問われていると思います。
まず、ラジオの再編について。
本年、二〇二五年三月二十二日に、日本のラジオ放送の開始から百年を迎えました。大正十四年三月二十二日にNHKの前身の一つである社団法人東京放送局がラジオ放送を開始したのが日本の放送の始まりでした。
このきっかけとなったのが、その一年半前に発生した関東大震災だったと言われています。先日、NHKで放送された放送百年の特集番組を見ました。東日本大震災当日の夜、避難所でNHKラジオ第一から、避難所の寒い夜だと思います、今夜は助け合いの夜です、皆さん見ず知らずの方でも同じ思いをされた方々で、今日からは隣人です、助け合って真っ暗な一夜を過ごしましょうというNHK仙台放送局のアナウンサーの声が流れ、避難している方々をいかに勇気付け、励ましたかを回顧していました。非常時には、まさにラジオは命綱となります。
稲葉NHK会長にお聞きします。
NHKはAM一波を二〇二五年度中に削減するとしていますが、なぜ、災害時の情報源として視聴者から頼りにされ、命綱となっているラジオ波を減らすのですか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 委員の御指摘は誠にそのとおりだというふうに思っております。
災害時に命と暮らしを守るために、停電しても使える、正確、迅速できめ細かい情報を伝えることができるというラジオの果たす役割は極めて大きいというふうに考えております。二〇二四年一月の能登半島地震でも、被災地では、インフラが寸断され、地上波の放送が見られない状況が発生した際、被災された方々はラジオからの情報を頼りにしていたというふうにも認識してございます。
音声波につきましては、二〇二六年三月末に現在の三波を二波に再編いたしますが、再編後も、新NHK・AMでは、全国を広くカバーする特性を生かして、ラジオの災害報道の基幹波としてニュースあるいはライフライン情報を放送してまいります。さらに、地域の状況に応じまして、新NHK・FMでも帰宅困難者向け情報あるいはライフライン情報などを伝えてまいります。公共放送として、視聴者・国民の皆様の安全、安心、命と暮らしを守るということは非常に重要な役割だと認識しておりまして、音声波の再編に当たっては、この点を十分留意しながら丁寧に進めてまいりたいというふうに思っております。
【伊藤岳 参院議員】 NHKは予算の説明で年間八億円程度の経費削減を見込んでいると言われましたが、私は、経費削減と言いますが、災害時の命綱となるラジオの削減はやめるべきだと指摘をしておきたいと思います。
次に、芸能実演家や演出家や舞台照明などのスタッフの労働安全衛生確保対策について。フリーランスの俳優さんは、現場で監督や演出家から指示を受けて働いても、けがや病気になったら公的に補償されることはほとんどありませんでした。放送現場にいるスタッフの雇用形態も、放送局の職員や制作会社に雇われている人や作品ごとに契約するフリーランススタッフなど様々です。
例えば、時代劇のエキストラ出演時に落馬して骨折をしたけれども見舞金三十万円で勘弁してくれと済まされた例があると日本芸能従事者協会から伺いました。
俳優や声優らでつくる協同組合、西田敏行さんらが理事長を務められた日本俳優連合、日俳連は、芸能従事者の労災保険加入を一貫して求め続けてきました。
厚生労働省に伺います。
二〇二一年四月一日から、特別作業従事者として、俳優やダンサーなどフリーランスの芸能実演家や、演出家や舞台照明などのスタッフなどが、労働者災害補償保険、つまり労災への特別加入が可能となりました。この経過を示してください。
【田中仁志 厚生労働省大臣官房審議官】 お答えいたします。
労災保険法におきましては、労働者が基本的に適用対象になるということでございますけれども、先ほど議員からも御指摘ありましたように、特別加入制度という制度がございます。これは、その業務の実情でありますとか、あるいは災害の発生状況などから見て、特に労働者に準じて保護することが適当であると認められる場合に任意で加入することができると、こういう制度でございます。
この特別加入制度の対象の範囲につきましては、法令で定めているところでございますが、令和元年十二月の厚生労働省の労働政策審議会の建議におきまして、特別加入の対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるよう見直しを行う必要があるとされたとともに、その後、半年ほどたってですけれども、令和二年の七月に決定されました成長戦略実行計画におきましても、フリーランスとして働く人の保護のため、労災保険法の、労災保険の更なる活用を図るための特別加入制度の対象拡大等について検討するということとされたところでございます。
これを受けまして、厚生労働省におきまして、国民に対する意見募集でありますとか、あるいは審議会におきまして関係団体からのヒアリングを行ったところでございます。
その結果、順次、対象範囲を拡大したところでございますけれども、芸能作業従事者の方々につきましても、令和三年四月一日から特別加入の範囲として省令改正をして指定したと、こういう経過でございます。以上でございます。
【伊藤岳 参院議員】 今説明あったとおり、長年の芸能、芸術、芸能従事者の要望と運動が実って労災対象の拡大となったということだったと思います。
厚労省にもう一問聞きます。
二〇二四年に、芸術、芸能分野が過労死等防止対策大綱改定における八つの調査研究の重点業種等に追加されました。この経過、できるだけ簡潔に説明してください。
【尾田進 厚生労働省大臣官房審議官】 お答えいたします。
過労死等の防止のための対策に関する大綱におきましては、過労死等が多く発生している又は長時間労働の実態があると指摘がある職種、業種を重点業種等と定めまして、それらの分野を中心に過労死等の実態の調査分析を行うこととしております。
この大綱は、過労死された方の御遺族の代表、専門家、労使の代表から構成されます過労死等防止対策推進協議会の御意見をお聞きした上で三年ごとに見直しを行っておりますが、御指摘の芸術、芸能分野につきましては、令和三年五月の協議会で労働実態の分析対象とすべきとの御意見、また、令和五年十一月、令和六年十一月の協議会でも更に重点業種等に追加すべきとの御意見、こういったものをいただいたことなどを踏まえまして、令和六年八月に閣議決定されました新たな大綱におきまして、芸術、芸能分野を過労死等の実態の分析の対象となります重点業種等に追加したところでございます。
【伊藤岳 参院議員】 過労死等防止白書が公表されております。見させていただきました。
この白書でアンケート調査分析結果が出ていますが、例えば、一週間当たりの拘束時間六十時間以上、これ相当な時間ですが、一週間当たりの拘束時間六十時間以上と回答した芸能分野の技術スタッフが四六・二%、最も高いです。次いで、舞台監督、制作関係、演出関係者が四〇・七%となっています。
つまり、放送現場は労働安全衛生確保対策がいまだ十分ではない実態があるということを示しているんだと思います。
稲葉会長にお聞きします。
この過労死防止対策大綱の改定などを受けて、NHKの労働安全衛生確保対策については、どのように対応してこられましたか。説明してください。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 NHKでは、放送ガイドラインで、出演者あるいは取材協力者、更に取材、制作担当者の安全の確保に十分配慮することとしてございます。
例えば、朝ドラと大河ドラマについて言いますと、現場に過度な負担が掛からないように、週に一度、制作の責任者が集まって収録開始時間や収録終了時間のデータを検証するなどの取組を行っておりまして、現にスタジオ収録は原則二十一時終了を目指しております。
こんなことで、各制作現場で出演者、スタッフの負担にならないよう、スケジュール管理を配慮しているという状況でございます。
【伊藤岳 参院議員】 各現場に安全管理者を置いているという話もレクでお聞きしました。この安全管理者が、放送現場の全ての人を事故から守るという役割を担っているということだと思います。
今、稲葉会長も言われましたけれども、平成二十九年、二〇一七年のNHKグループ働き方改革宣言において、放送現場の取組として、本体制作の番組のスタジオ収録は原則二十二時終了を目指す、大河ドラマ、連続テレビ小説は原則二十一時終了を目指すと書かれております。先ほど会長も触れられました。
実際、この二十一時、二十二時のこの終了という、このことが現状今どうなっているのか、長時間労働に頼らない組織風土づくりは今どこまで来ているのか、説明してください。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 スタジオ収録は原則二十二時終了、それから大河ドラマ、朝ドラは原則二十一時終了、これを目指すということとした働き方改革宣言をしておりまして、その内容に沿って業務は行われているわけでございますが、ただ、当日の業務開始時間が午後になった場合とか、あるいは予期せぬトラブルが発生した場合などは、終了時刻がそれぞれ目安とした時間を超えるという日も実はございます。
連日収録を行うドラマなどでは、前日の撮影終了が遅くなった、そういう場合には、出演者、スタッフが休息を取れるよう翌日の開始時間を遅らせるなど、インターバルを確保するというようなことを気を付けてやってきてございます。
いずれにしても、過重労働とならないよう労働時間を適切に管理しておく、その考え方も最も大事だと思います。長時間労働の改善に引き続き強めていきたい、努めていきたいと思っております。
【伊藤岳 参院議員】 会長も今日の審議の中で、放送の現場、報道の現場というのは二十四時間なんだと、対象はですね、報道や放送の対象は二十四時間やっているんだと。
しかし、だからこそ、やっぱりこのNHKの現場で働く職員、アルバイトも含めて全ての人が安心、安全に働ける環境整備を会長を先頭に実現をしていくということを、しっかり目配り、実行していくことは大事だと思うんです。
NHK職員の働き方についてお聞きします。
過労死等防止対策大綱は、二〇一三年七月にNHKで過労死として公表された佐戸未和さん、当時三十一歳の記者の事件もきっかけとなり策定されたものだと承知をしております。その佐戸未和さんと同じ職場で、二〇一九年にも都庁キャップとして東京オリンピックなどの取材をしていた四十代男性管理職が亡くなられました。長時間労働による過労死と見られ、二〇二二年には渋谷労基署が労災認定をしています。
当委員会、参議院の総務委員会では、これまで五年連続で、NHKに対し、過労死の再発防止などを求める附帯決議を採択してきています。ところが、NHKは、二〇二四年三月にも別の職員が長時間労働による労災認定を受けて、四月には東京労働局からの行政指導がありました。
稲葉会長にお聞きします。
この二〇二四年の四月の行政指導を受けて、NHKは危険レベルや危険警戒レベルの連続発生となる勤務を一年間で三〇%削減することを目標としている、一年間で三〇%削減することを目標としているとしています。これ、具体的にはどういうことを意味するんでしょうか。これで過労死を二度と生まない職場となるとお考えなんでしょうか。どうですか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 昨年九月にまとめました改善計画では、単なる労働時間の削減ということではなくて、一人一人に目を向けた勤務管理体制や健康の確保を着実に行うということに重点を置いてございます。
改善計画といたしましては、不規則、長時間労働削減に向けた数値目標の策定、健康確保に向けた産業医、上司との連携強化、有給休暇の取得促進、基本ルールの周知徹底などを基本としております。NHKでは危険レベルとしている勤務は一年間三〇%削減、こうしておりますが、それで終わるようなものではなくて、三年間掛けてなくすことを目標としてございます。
NHKの業務は、実は災害、事件、あるいは事故などの対応を二十四時間三百六十五日行っておりまして、長時間労働になりがちだということは否めないんですけれども、職員の使命感に委ねてはならず、勤務実態の把握、体制やフローの点検などの改善を行いながら、段階的に取り組んでいきたいというふうに考えております。
【伊藤岳 参院議員】
危険警戒レベルの連続発生というような勤務は直ちに根絶するべきだと思います。
最後に、ハラスメント対策についてお聞きをしたいと思います。
二〇二四年十二月二十六日、公正取引委員会は、放送番組等の分野の実態調査報告書を公表しました。実演家個人、芸能事務所、放送事業者の三者の関係性の中で弱い立場に置かれる構造にはまり込んでしまったときにハラスメントが生じると、逆らい難い構造があると、この報告書で指摘しています。
昨日、フジの第三者委員会の報告書も出されましたが、そこでもメディア、エンターテインメント業界のハラスメントは構造的な問題だと言及をしています。
稲葉会長は、二〇二五年一月の定例会見で、フジテレビの性加害問題に関連した記者の質問に対し、報道されているような事案に関しての通報や相談はこれまで一切ないとお話をされていました。
しかし、稲葉会長、先ほどの公取委の逆らい難い構造という、このメディア、メディアの特徴である逆らい難い構造という指摘は大変重要じゃないかと思うんですよ。日常的に、職員のみならず、関連団体職員、番組協力会社、派遣、アルバイトスタッフも対象にして、ハラスメントの調査が欠かせないんじゃないでしょうか。声を聞くことが欠かせないんじゃないでしょうか。会長の認識を伺いたい。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 まずもって、NHKの出演者に対する人権尊重のガイドライン等に基づきまして、NHK及び関連団体の全ての役職員は、出演者の人権、人格を尊重し、安心、安全な制作現場の確保に努めているということをまずしっかり確保するということがまずは大事だというふうに思っております。
また、NHKでは、ハラスメント防止規程を定めるとともに、ハラスメントを許さないと、NHKで働く全ての人を守ると、被害があれば毅然と対応する、この三つの原則にのっとって対応してございます。
大事なことは、被害を受けた方が相談窓口に来て実情を話してくれるかどうかということだと思います。そのためには、こういった制度があるということを周知するとともに、そもそも相談したことで不利益な取扱いを受けないと、あるいはプライバシーを守って公正に対応することをはっきり明らかにする、こういうことが大事だと思います。相談を受けた場合には、相談者の意向を確認して適切に対応する、そういう原則で臨んでいきたいと思っております。
【伊藤岳 参院議員】 フジの調査報告書を見ても、なかなか相談、口に出して言えないという現状がありますよね。
公共放送としてNHKがハラスメントを一掃するという先進的な役割を担うべきだと訴えて、質問を終わります。