議事録
【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。
私は、会派を代表して、地方自治法の一部を改正する法律案に対して反対の討論を行います。
本改正案に対して、地方自治体の首長などから、指示権が将来なし崩し的に適用され、地方自治の根幹を壊してしまわないか危惧する、白紙委任するのは有事法制の作りと一緒だ、個別法で十分対応でき、立法事実がないといった深い懸念や批判の声が今次々と上がっています。本法案は廃案とすべきであり、採決に強く抗議するものです。
反対の最大の理由は、本改正案が、政府が国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがあると判断すれば、国が地方自治体に指示をすることができる指示権を新たに導入するものであるからです。
自治体は国の補充的指示を拒否できるのかという私の質問に、政府は指示には従っていただくと答弁しています。地方自治体を国に従属させる仕組みをつくる、こうした乱暴極まりないやり方は、これまで歩みを進めてきた地方分権を否定するだけでなく、憲法が保障する地方自治を根本から破壊するものです。断固として反対するものです。
我が国を悲惨な侵略戦争に導いた戦前の中央集権的な体制の下、地方自治体は戦争遂行の一翼を担わされました。その深い反省の上に、日本国憲法は第八章に地方自治を明記し、地方自治の本旨として、国から独立した団体が行うべきとする団体自治と住民の意思に基づき行われるべきとする住民自治を保障しました。
しかし、歴代の自民党政権は、自治体の権限や財源を抑制し続け、一九九九年に成立した地方分権一括法でも、地方分権を掲げて機関委任事務を廃止したものの、広範な自治体の事務を法定受託事務とした上に、国による強力な関与の仕組みを新たに法定化し、自治事務に対しても国による是正の要求を可能としてきました。
本法案による指示権がとりわけ重大なのは、国による強制的な関与は基本的に認められないとされている自治事務にまで、国による極めて強い関与の仕組みが設けられていることです。
まず、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態と判断する類型も基準も、大規模な災害、感染症のまん延その他としているだけで極めて曖昧であり、さらに、発生のおそれがある場合も判断することができるなど、恣意的判断が広く可能となっていることです。
さらに、総務委員会の審議では、新設される特例関与は、いわゆる補充的指示の条項だけでなく、言わばその前段である資料、意見の提出の要求や事務処理の調整の指示に関する条項においても特例関与がたやすく発動され、そして発動されたならば強力な権力的関与として働くことが明らかとなりました。
資料、意見の提出の要求では、権限行使の主体である各大臣に限らず、都道府県知事とその他の執行機関、つまり県教育委員会や公安委員会、選挙管理委員会なども、その担任する事務に関して、事態や発生のおそれがある場合であると判断できることが明らかになりました。
さらに、資料の提出要求では、自治体の保有するデータや住民の個人情報全般が含まれ、オンラインでやり取りされることも想定されます。これでは、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の場合に限って特例的な関与として行われるオンラインでのデータの交換が日常的、恒常的に行われないとも限りません。
政府が国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがあると判断した場合、各大臣は、その担任する事務に関して、事態が発生している当該都道府県に対して、市町村を超える広域の見地から事務処理の調整を指示する事務処理の調整の指示を行うことができます。この調整の指示の対象となる自治体の事務には道路などのインフラ管理や都市計画が含まれ、さらに、法改正を踏まえ、今後、政令によって指定する事務の対象には、市町村の規模や能力に応じて設置されている保健所や福祉事務所などが含まれます。
つまり、生命保護の措置を的確かつ迅速に実施するために必要とされる全ての自治体の事務が調整の指示の対象事務とされて、さらに、この調整の指示は、法定受託事務として、都道府県に法的義務として実行を迫り、代執行さえも可能とされるのです。松本大臣は、国が直接に調整の指示を行うことはあることを明言しました。地方分権、地方自治の本旨を真っ向から否定するもので、断固容認することはできません。
本法案の核心である補充的指示権を新設することについての立法事実は、衆参の審議を通じて、ついに全く示されませんでした。
そもそも自治体に対する国の関与は、現行地方自治法に基づき、関与法定主義、関与最小限度などの原則によるものです。この地方自治法の一般ルールで間に合わない場合に例外として個別法を設けることができるものであり、本改正案の補充的指示権は、これを覆して、個別法の規定で想定できない場合は国が自治体に指示権を行使するというもので、これまでの地方分権の考え方を否定するものです。
総務省は、個別法には三百六十二件の指示の規定があることを示しました。しかし、本法案の提出に責任を持つ総務省は、これら個別法で想定される事態やそれぞれの指示について、何が可能で何が課題かなどについて検討、精査すらしていません。立法事実がないことは明白です。
政府が、存立危機事態を含む事態対処法や安保三文書に基づく特定利用空港・港湾への法律の適用について、除外するものではないとしていることは看過できません。アメリカの戦争に自治体を動員するために使われる危険は極めて重大です。安保三文書に基づく戦争する国づくりのための立法は断じて許されません。
さらに、本改正案は、国による特例関与と一体に、国による自治体職員の派遣のあっせんを可能とするもので、国の補充的指示に基づく業務遂行のために自治体職員までも駆り出すもので、強く反対するものです。
また、本改正案は、他の自治体又は国と協力し、情報システム利用の最適化を図ることを自治体の努力義務と規定するものです。
政府は、これまでも地方公共団体システム標準化や国が構築するガバメントクラウドの活用を求めてきました。今後国が進める情報システムの整備の取組に幅広く協力していくことを自治体に求めるものです。自治体は国がつくる鋳型に収まる範囲しか施策を行わないことになり、地方自治を侵害しかねません。地方自治法にこうした規定を持ち込むべきではありません。
最後に、重ねて申し上げます。
戦前、団体自治、住民自治がなかったことが政府が戦争体制を国の隅々まで貫徹する要因となりました。政府が行うべきは、地方自治体に権限と財源を十分に保障し、国民の命と暮らしを支える現場の力を強くすることです。憲法が保障する地方自治を踏みにじることは断じて許されません。
以上を述べて、討論とします。(拍手)