議事録

2024年5月7日 総務委員会(プロバイダ責任制限法の参考人質疑)

議事録

【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。参考人の皆さん、本日は貴重な御意見いただき、ありがとうございました。

 清水参考人に伺います。

 参考人は現場で実務に当たられておりますが、実務上の課題について伺いたいと思います。

 二〇二一年の法改正で、誹謗中傷等の投稿を行った発信者の特定について、SNS事業者などと通信事業者などに対する開示命令の申立ての一体的な審理に基づく開示が可能となりました。

 前回のこの法改正後、弁護士の事務所などの現場ではどのような変化があったのか。例えば、開示手続件数は伸びているのか、プロバイダーは速やかに開示しているのか。速やかに開示されていないとすれば、今度提出された本法案がどのような意義を持ち、生かされるとお考えか。また、この法案では残される課題は何があるか。

 先ほどログ保存期間の問題なども参考人からお話しになりましたが、前回の法改正後、X社などは、ログ保存期間との関係で、開示しないときに仮処分を利用しますが、そのときにX社は仮処分の担保金十万円を求めるようになったという話もお聞きしております。

 参考人の様々なお考えをお聞かせください。

【清水陽平 弁護士】 御質問ありがとうございます。

 開示命令というよりは、開示命令自体は非訟事件として早く進むようになったので、開示早くなった点は良かったというふうに思っております。決定までは早くなったと。ただ、国内事業者を相手にするときは特に早くなって良かったというふうに感じているんですけれども、国外事業者を相手にするときは、開示命令というよりは、その付随する手続である提供命令がうまく使えないという事案が非常に多いという認識です。

 特に、今出てきたツイッター、まあXですね、Xに対する開示については、非常に、ログの調査自体が非常に遅い関係上、かつ提供命令については強制執行が事実上できないという問題がありますので、手続が遅くなってしまうという問題があります。ですので、これについては仮処分を使っておりまして、仮処分では、さらに、御指摘があったように、十万円の担保金を供託するようにという扱いに最近変わっております。

 改正自体、全体としては良かったかなと思っているんですけれども、強制執行ができるまでの期間というのが一か月という形で、確定するまでが一か月という形になっておりまして、その確定してからじゃないと強制執行ができないということになっているので、それがなかなか、待っている時間がログ保存期間の関係で難しいという課題があります。

 また、先ほどちょっと申し上げたように、提供命令という手続がつくられているわけですけれども、その提供命令について、一応条文上は強制執行ができる場合があるのですが、実際上は相手がログを持っているということを確定できている事情がないと強制執行ができないという問題がありまして、申し立てた時点でログを持っているかどうかということは分かりませんので、強制執行ができない、結果として、提供命令に相手がなかなか従わない場合には手続が進まないという問題が生じていますので、ここについての手当てが必要ではないかなと思っております。

【伊藤岳 参院議員】 ありがとうございます。

 大谷参考人、清水参考人に伺います。

 本改正案の第二十五条で、一定期間内の調査と申出者への通知が規定されています。二十五条二項三号では、やむを得ない理由などがある場合には、やむを得ない理由などを通知すれば足りるとされております。

 これらの規定をどのように評価されておりますでしょうか。このやむを得ない理由等が多用されて、結局投稿が削除されないということにはならないかとの懸念を私持っていますが、参考人はどのようにお考えか、お聞かせいただきたいと思います。

【大谷和子 株式会社日本総合研究所執行役員法務部長】 御質問ありがとうございます。

 この二十五条の二項の三号のやむを得ない理由に該当するものとして想定されているのは、例えば大規模な災害などが発生してこれらの期間内に回答ができないような極めて限られた場合というのでございますので、これに該当する場合がそもそも少ないということの認識をちゃんと高めることができれば、この規定自体はさして問題となるものではないと思っております。

 ただ、そのやむを得ない理由を伝えた上で、それが本当にやむを得ないものでなかった場合に、これは、利用者というか被害者の側としてどのような手続を次に取れば自分の被害救済が図られるのかといったことについてのプロセスが見えるようになっていないと、この規定というのが十分に機能しないというか、この二十五条も含めた迅速化規律というのが骨抜きになってしまう可能性も出てまいりますので、やむを得ない理由の、その理由をちゃんと通知するといったときに、その後にどんな手続が残されているのかといったことも含めて分かるように示していくということが望まれる点ではないかなと考えております。

 以上でございます。

○委員長(新妻秀規君) では、続きまして、清水参考人。

【清水陽平 弁護士】 やむを得ない理由の内容についても通知しなければいけないことに一応なっておりまして、その内容がどこまで詳細なものかということにもよってはくるんだとは思うんですけれども、おっしゃるように濫用の危険というのもないことはないのかなというふうには思っております。

 ですので、このやむを得ない理由の内容を、具体的にはこういうことですよと、実際にはこういう場合に限定されますよということを、ガイドライン等々、まあ条文解説とかですね、そういうところで明らかにしていく必要があるのかなと思っております。

【伊藤岳 参院議員】 大谷参考人と清水参考人に伺います。

 グーグルなど米国のIT企業の人員削減が顕著で、特にX社、旧ツイッターの場合、同社が買収された二〇二二年十月から翌年の二〇二三年五月までの間で、不適切なコンテンツの監視や削除に関わっていたスタッフ中心に、全世界で四千六十二人から二千八百四十九人と、三〇%人員削減されたとの報道があります。

 プラットフォーム事業者がこうした人員削減を進めれば有害情報に対応できないのではないかと危惧の念を持ちますが、参考人どう思われるか、お伺いしたいと思います。

○委員長(新妻秀規君) それでは、じゃ、大谷参考人からお願いします。

【大谷和子 株式会社日本総合研究所執行役員法務部長】 ありがとうございます。

 私もその報道に接したとき大変驚きまして、コンテンツモデレーションの実施について非常に後ろ向きな対応であるということを懸念いたしましたし、実際にそのとき報道されていたのが、その人員削減の対象となって、自分は価値のある仕事をしていると考えていた労働者の方が人員削減の対象になったということで、その企業におけるコンテンツモデレーションの実効性などについて懸念されている意見を表明されていたということにも接しまして、もちろん人、人間だけでやるわけではないとはいっても、十分な知識を持つ方を実行部隊として維持していただくことは非常に望まれることですので、もちろんそれぞれの企業の実情はあると思いますけれども、人員削減によってコンテンツモデレーションのその正確性であるとか、それから迅速さといったものが損なわれないということを説明する責任が彼ら事業者にはあり得るだろうなというふうに感じております。

 もう感想となりまして恐縮ですが、そのように感じましたので率直に述べさせていただきました。

【清水陽平 弁護士】 削減されたということで、実際それ自体問題ですし、問題だと思っておりますし、実際実務上対応が非常に遅くなった若しくは対応がされなくなった、無視されるということは逆になくなったのですけれども、自動返信で少なくとも来るようになったという形にはなったんですが、実際対応してもらえるまでの期間というのが延びたりしているという実態があります。その傾向がやはり顕著なのがXかなというふうに思っておりまして、非常に、誹謗中傷が非常に多いのがXでもありますが、対応も非常に悪いのもXであるということで、そこは非常に問題かなと感じているところです。

【伊藤岳 参院議員】 大谷参考人と清水参考人にお伺いします。

 本法案で大規模プラットフォーム事業者に侵害情報調査専門員の選任が求められます。これは大規模プラット事業者に対してどのような効果があるとお考えか、また、専門員の選任に当たってどのような方が選任されればより効果が上がるとお考えか、参考人の御識見をお伺いしたいと思います。

【大谷和子 株式会社日本総合研究所執行役員法務部長】 ありがとうございます。

 専門員の選任に対する期待というのをこれまでも意見として述べさせていただいたところでございまして、特に法律、司法の制度に明るく、現状日本で起きている誹謗中傷の実務に詳しい方、それであって、また、インターネット空間における誹謗中傷が与える日本特有の課題について見識のある方を、法律専門家を選んでいただくことが必要だと思いますし、その法律専門家を支える組織というか、事務局のようなものをちゃんとリソースとして整えていただくことや、また、その方の知見というのをその組織全体に行き渡らせるための施策というのも、法律の条文には書いておりませんけれども、それをおのずと整えていただくことの期待も含めてこの調査の制度ができ上がっているということで、実際にその調査が実質的に行われているかどうかということの確認には恐らく多少時間は掛かると思いますけれども、専門員が選ばれているからそれで終わりということではなく、調査にそれがどれだけ生かされたかということを関係者がモニタリングしていくことが極めて重要な制度だと認識しております。

 以上です。

【清水陽平 弁護士】 専門員がきちんとした人が選任されて動いてくれれば対応がきちんとされるのかなと思うんですけれども、適切な人が誰かという話になると、どうしても実務に携わっている弁護士ぐらいしかないのかなというふうに思っております。

 ただ、弁護士といってもいろんな仕事をやっていることが普通でして、ネット上の中傷等々について、また日本の文化とか歴史的背景みたいなものについてきちんと分かっているという話になってくると、より狭い人になってくる可能性は高いのかなということで、人材確保というのは実際上難しい可能性は高いのかなというふうにも思っております。

 現状、大規模なプラットフォーム事業者の代理人としては四百人規模以上の弁護士を抱える事務所が付いておりまして、実際上はその事務所の人たちに専門員が任命されるのではないかと想定はするんですけれども、そうなった場合、グーグル側の、何というんですかね、利益追求という観点からは利益相反が生じ得るところでして、その利益相反を、利益相反生じ得る場合、生じる場合にどういうふうに対応を取っていくのかというところも見ていく必要があるのかなというふうには思っております。

【伊藤岳 参院議員】 時間になりましたので、終わりたいと思います。

 貴重な御意見ありがとうございました。法案の審議に生かさせていただきます。ありがとうございました。