議事録

2023年5月25日 総務委員会(放送法及び電波法改正案・マスメディア集中排原則の緩和問題・ローカル局の意義など)

議事録

【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。

 松本大臣は、衆議院の質疑で、マスメディア集中排除原則について、政府の規制改革実施計画の内容も踏まえて有識者検討会において検討を行った結果、インターネットを含め情報空間が放送以外にも広がる現在においては、マスメディアの集中排除原則の政策目的、放送の多元性、多様性、地域性を確保するための政策手段によっては、経営の選択肢を狭め、かえって多元性を損なうことにもなりかねないといった考えが示されましたと答弁をしています。

 大臣、マスメディア集中排除原則が経営の選択肢を狭めかねないので緩和したということでしょうか。

【松本剛明 総務大臣】 放送事業者に関する資本規制、いわゆるマスメディア集中排除原則に関しては、放送の多元性、多様性、地域性を確保するために設けられているところでございます。今御指摘がありました衆議院の総務委員会におきましても、マスメディア集中排除原則の政策目的は重要であるというふうに申し上げまして、この目的そのものを、政策目的そのものを維持することの考え方に変わりはございません。

 その上で、総務省の有識者検討会において、このマスメディア集中排除原則の目的を実現するための政策手段によっては、資本連携や経営統合といった放送事業者の経営の選択肢を狭めることで、放送事業者の経営の安定性が損なわれ、かえって多元性を損なうことにもなりかねないという考えが示されたというふうに理解をいたしております。すなわち、やはり個別の放送事業者の経営が極めて厳しくなることは結果として多元性を損なうことになると、このような御指摘であろうかというふうに思っております。

 御案内かと思いますけれども、検討に当たっては、有識者の検討会において資本関係と自主制作番組比率との関連性について分析をいたしまして、現行の資本規制に係る例外措置がございますけれども、この例外措置によって放送の多元性などが損なわれないとの結果を得られたということで、与える影響についても検証した上で、今マスメディア集中排除原則の例外措置の緩和を行ったというふうに御理解をいただきたいと思っております。

【伊藤岳 参院議員】 今も少し触れられましたが、同じく大臣は、三月のマス排省令改正について、このマスメディアの集中排除原則は維持しつつ、放送法において省令で定めることとされている例外を拡大した、認定放送特殊持ち株株式会社が傘下に置くことができる地上基幹放送事業者の地域数の制限の撤廃、隣接、非隣接にかかわらず地上基幹放送事業者の兼営、兼ねる営業ですね、支配を可能とする制度の創設の二点を例外として加えたものと答弁されました。

 大臣がマスメディア集中排除原則を維持していると言う根拠は何ですか。

【松本剛明 総務大臣】 先ほども御答弁申し上げたとおり、マスメディア集中排除原則は放送の多元性、多様性、地域性を確保するために設けられているもので、この目的を実現する方法として、先ほども御答弁申し上げましたけれども、総務省の有識者検討会において資本関係と自主制作番組比率との関連性について分析をしての結果は先ほど申し上げたとおりで、与える影響についてあらかじめ検討をして省令改正を進めさせていただきました。

 他方で、先ほどこれも申し上げましたとおり、こういった経営の選択肢を狭めることでかえって経営を危うくしかねないという意味で経営の安定性が損なわれるというふうに申し上げたのでございますけれども、その結果として多元性を損なうことにつながりかねないことに対する懸念が示されたものと理解をしておりまして、これに対して、経営の選択肢を広げ、かつ与える影響については検証し、マスメディア集中排除原則の多元性、多様性、地域性を確保することができると、このように考えて省令改正を行ったということでございます。

【伊藤岳 参院議員】 大臣、そう言いますが、資本力を有するキー局が、関係する持ち株会社を通じて地域の制限なくローカル局を支配下に置くことができることになります。

 資本力のあるキー局によるローカル局の議決権、役員兼任による支配の制限は、マスメディア集中排除原則の核心部分だと思います。また、まだ制限はありますからということを言われますが、認定放送持ち株会社制度が導入されて以降、十二都道府県分までとされてきた地域制限を撤廃するということになります。政府の規制改革実施計画に基づく原則緩和は極めて大きいと指摘をしておきたいと思います。

 そして、こうした資本による支配地域の制限撤廃は、放送番組の同一化を推進する後押しともなります。改正案では、第百十六条四で特定放送番組同一化実施方針の認定制度を創設する、現行の認定経営基盤強化計画の、強化計画認定において要件としている収益性の向上を図ることを削除します。収益性の向上があったこともあり申請がされてこなかったものが、経営状態にかかわらず申請ができて、国はこれを認定することになります。

 小笠原局長、改正後、国が申請された放送番組同一化実施方針を認定しないということはどのような場合に想定されますか。

【小笠原陽一 総務省情報流通行政局長】 本法案におきましては、放送法百十六条の四第三項におきまして特定放送番組同一化実施方針の認定の要件を定めております。

 具体的には、放送番組の同一化を行う放送対象地域が重複しないこと、放送対象地域の自然的経済的社会的文化的諸事情が相当程度共通していると認められること、放送対象地域の数が総務省令で定める数を超えないことのほか、地域性確保措置の内容が同一化を行うそれぞれの放送対象地域固有の需要を満たすために適切であるといった要件を定めております。

 これらの要件のいずれかに適合しないと認められる場合には、その特定放送番組同一化実施方針は認定されないこととなりますが、総務省としては、その実施方針の認定に関する個別の基幹放送事業者の予見性や制度の透明性を高める観点から、地域性確保措置の具体例等を可能な限り周知することを検討してまいります。

【伊藤岳 参院議員】 要するに、基本的には認定の障壁になることはあり得ない、余りないということだと思います。

 改正案では、それぞれの放送対象地域における放送番組に対する当該放送対象地域固有の需要を満たすための措置を講じるとして、地域性確保措置を基幹放送事業者に求めるとしています。地域性確保措置の内容は、放送事業者が自ら定めるのですか、それとも国が一定の基準、例示を示すのでしょうか。

【小笠原陽一 総務省情報流通行政局長】 今回の法案におきましては、異なる放送対象地域で放送番組の同一化を行うことでありましても、それぞれの地域固有の需要を満たすという放送の機能が損なわれることがないよう、放送番組の同一化を行う放送事業者において地域固有の需要を満たすための講ずる措置である地域性確保措置を講ずることを求めるということにしております。

 地域性確保措置の具体的内容につきましては地域ごとに異なり得るものと考えますが、地域において放送に期待される役割を踏まえまして、地域の情報、地域の取材拠点、あるいは地域向けの災害放送体制等がなくならないように維持することが考えられます。こうした地域性確保措置につきましては、基幹放送事業者が、個別の事情等を踏まえ、自主的に判断して定めるものというふうに考えております。

 ただ、総務省といたしましては、その実施方針の認定に関する個別の事業者の予見性、制度の透明性を高める観点から、地域性確保措置の具体例等を可能な限り周知することを検討してまいります。

【伊藤岳 参院議員】 国が一定の基準、例示を示すということについては、現行の経営基盤強化計画の認定に当たっての基準を基にこれから整備していくということだと思います。これらがクリアされなければ、放送番組同一化実施計画、実施方針が認定されないということはあり得ますか。

【小笠原陽一 総務省情報流通行政局長】 クリアされなければというお尋ねでございますが、地域性確保措置の具体的内容は地域ごとに異なり得るものというふうに考えますし、それから、放送事業者さんが個別の事情を踏まえて自主的に判断して実施方針として申請するというふうになっております。

 したがいまして、そういった内容につきましてはまずは放送事業者さんにおいて説明されるものというふうに考えておりますし、そうした説明の内容に応じて、総務省として適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

【伊藤岳 参院議員】 認定されないということは余り想定していないということだと思います。

 では、地域性確保措置の内容を国が点検することを通じて、放送番組の編集に対する介入になることはないと明言できますか。

【小笠原陽一 総務省情報流通行政局長】 ちょっと繰り返しになって恐縮でございますが、地域性確保措置の具体的内容は地域ごとに異なり得るものと考えます。基幹放送事業者が個別の事情を踏まえ、自主的に判断し、特定放送番組同一化実施方針として申請することとしております。

 その上で、放送番組は放送法にのっとって放送事業者自らの責任において編集をするものであり、実施方針に沿った措置が講じられているか、あるいは地域性が確保されているかといった点を含めて、まずは放送事業者さんにおいて説明されるものというふうに考えております。

【伊藤岳 参院議員】 地域性確保措置の点検を通じた放送番組の編集への介入はないと明言されたことを確認したいと思います。

 同時に、地域性確保措置の内容は現時点では具体的なものはありません。これが地域性の確保にとってどれほどの担保になるのかは極めて不確定であります。放送番組の同一化が実施されれば、対象地域の番組表は基本的には全く同じものとなります。放送法に基づく基幹放送計画の多元性、多様性、地域性が希薄にならざるを得ないのは明らかです。

 例えば、番組を同一化した、同一した地域で、ニュース番組内のいわゆるローカル枠がほかの県のニュースと半々の割合で報じられるということなどになってしまって、県民が求める必要な情報が細切れでしか伝わらないということにはならないでしょうか。

 結果的に、このことは、地域放送の魅力は失われます。視聴者が放送から離れます。地元企業の出資も減少します。経営悪化を招くことになるのではないでしょうか。

 放送番組の同一化は二〇一四年の放送法改正で導入されました。我が党は、経営基盤強化計画の認定制度の要件を緩和するものだと、そして、放送は地域社会を基盤にし、情報の多元的な提供及び地域性の確保という基幹放送普及計画の目的を覆すとして反対をいたしました。

 本改正案は、放送番組の同一化を法定化し、広範な対象地域で放送番組の同一化を認めるものとなります。総務省のデジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめに対する地方のローカル局からの意見募集には、様々な意見が寄せられています、これらに関わって。

 例えば、これは静岡第一テレビですが、ローカル局は、自社ウェブサイトやアプリなどでの発信、他メディアへの配信などを活用し、地域情報を発信しています。また、イベント開催を通して地域文化振興や地域経済に貢献するなど、ローカル局の存在意義は自社制作番組比率だけでは測れないと考えます。次、熊本県民テレビ。放送番組の同一化が実現した場合には、ローカルスポンサーのニーズに応えられない可能性も出てくると考えられます。その結果、収益の悪化を招き、ひいては地域情報発信の量、質共に著しく低下するおそれがあると考える。次、南日本放送。ローカル局の意見が広く反映されるとは言い難いと指摘する厳しい意見もあります。

 局長、こうしたローカル局の意見が反映されたと言い切れますか。

【小笠原陽一 総務省情報流通行政局長】 今御指摘のその研究会の取りまとめ、研究会の報告の取りまとめの策定に当たりましては、取りまとめの際のパブリックコメントの機会のみならず、検討会の議論の過程においてローカル局との意見交換の場を設け、放送番組の同一化やマスメディア集中排除原則の例外の拡大について意見を聴取してまいりました。

 意見交換におきましては、地域での広告価値あるいは需要が下がるといったその懸念も指摘された一方、将来的に経営状況が悪化した場合の選択肢としてあるのはよい、選択肢が増えるということはローカル局が経営力の維持向上を目指す上でも前向きな材料になると、そういった意見も頂戴しているところでございます。

 パブリックコメントにおきましても、経営の選択肢を増やす規制緩和や制度変更には賛同するとした上で、地域情報の確保は重要であるという、そういった意見を頂戴しているところでございます。

 本法案で制度整備いたします放送番組の同一化については、放送事業者の経営の選択肢としてお示しするものでございます。本法案をお認めいただいた暁には、放送番組の同一化の地域確保措置あるいは、あっ、地域性確保措置あるいは放送対象地域の具体的な数の上限等について、ローカル局の御意見も十分に踏まえながら検討してまいりたいというふうに考えております。

【伊藤岳 参院議員】 はい、まとめます。ローカル局は放送番組の同一化を望んでいるという声は多くありません。デジタル時代への対応を口実にマスメディア集中排除原則を緩和するのは筋違いだと指摘して、質問を終わります。

 

以下反対討論

【伊藤岳 参院議員】 私は、日本共産党を代表し、放送法及び電波法の一部を改正する法律案に対し、反対の討論を行います。

 本法案は、二〇一四年に定めた認定経営基盤強化計画を改め、特定放送番組同一化実施方針の認定制度を創設し、これまであった収益性の向上の規定を廃止し、経営の悪化が見込まれなくても、特段の制約がないまま放送番組の同一化ができるようにするものです。県域を越えて複数の放送局が同じ放送番組を同時放送できることとなれば、様々な形で地域に貢献してきた民間放送局の地域性、多元性、多様性を損ないかねません。結果的に、地域放送の魅力は失われ、視聴者や地元企業の放送離れによって経営の悪化を招くことになります。

 そもそも、本法案の出発点は、ローカル局や視聴者の要望から出されたものではなく、規制改革実施計画の閣議決定が求めたローカル局の再編にあります。

 法案の検討会で行った意見募集には、放送番組の同一化についてローカル局からは否定的な意見が少なからず出ているのに、それらは全く反映されていません。

 また、総務省は、将来にわたる放送事業の確保や経営安定と称して放送番組の同一化を促し地域性をないがしろにする一方で、地域性確保措置を求めることには矛盾があり、問題です。地域性確保措置の具体的内容は全く示されていませんが、地域性の確保を理由に総務省が番組の自社制作比率などの何らかの指標を示すならば、放送事業の自主自律、編成、編集の自由への制約になりかねません。

 マスメディア集中排除原則の特例を定めた総務省令を改め、キー局が子会社として傘下に置ける地上基幹放送事業者の地域数制限を撤廃し、兼営、支配を可能とする制度も追加しました。放送番組の同一化と併せて行えば、子会社に対する資本の支配を強めたキー局が地方のローカル局の再編をキー局中心のものに変えることも可能となり、地域の視聴者・国民の放送視聴の選択肢を狭めます。

 地域社会に根差すローカル局の経営と地域性、多元性、多様性を支えるためには、このような放送局の経営合理化、放送番組の同一化ではなく、地域経済の活性化こそ必要であることを指摘して、討論を終わります。