議事録
【伊藤岳 参院議員】 日本共産党の伊藤岳です。
稲葉延雄NHK新会長に放送法についての認識を伺いたいと思います。
放送法は、憲法第二十一条の表現の自由を受けて、戦後直後の一九五〇年に制定をされました。放送法第一条では、放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保することなどを放送法の目的として定めています。第三条では、放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがないと定めています。放送番組の編集は放送事業者の自律に任せるべきであり、政府による公権力の干渉、介入は避けることが放送法の根幹となっています。
公共放送としての自律、政府権力からの自立が問われている。会長として、放送法の基本をどのように認識していますか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 御指摘のとおり、放送法の第一条には、放送法の目的として、放送の効用を国民にあまねく普及し、表現の自由を確保し、健全な民主主義の発達に資するということがうたわれております。こうした公共放送としての役割をしっかり果たすために、NHKとしては、公平公正で確かな情報を間断なくお届けして、視聴者の日々の判断のよりどころになりたいというふうに考えてございます。
一方、NHKは、不偏不党の立場を守りながら、公平公正、自主自律を貫いて放送してございます。放送法の規定を踏まえて定めてあります国内番組基準の中で、全国民の基盤に立つ公共放送の機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、放送による言論と表現の自由を確保するということを明記してございます。
今後も、不偏不党、自主自律を堅持し、視聴者の声に耳を傾けながら、これは放送法の中の文言でございますが、より良い放送の実現に努めていきたいというふうに考えております。
【伊藤岳 参院議員】 安倍政権の下、二〇一五年四月に、NHKの「クローズアップ現代」への厳重注意が行われました。自民党情報通信戦略調査会がNHK幹部を呼んで、クロ現の番組についての事情聴取も行われました。NHKはこれらに応じました。
政府権力からの番組への干渉、介入があった場合、会長はどのように対応していくおつもりですか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 細かい経緯について私余り承知してございませんが、少なくとも放送法第三条には、放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがないと、こうして放送番組編集の自由について定めてございます。NHKは、不偏不党の立場を守りながら、公平公正、自主自律を貫いて放送を当たってきてございまして、この姿勢には変わりはないということでございます。
【伊藤岳 参院議員】 もう一つ関連してお聞きします。
二〇一五年四月の「クローズアップ現代」への厳重注意については、BPO、放送倫理・番組向上機構が意見を出して厳しく批判をしています。こう書いています。放送事業者自らが問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する自律を侵害するもの、番組の内容に関しては、国や政治家が干渉するのではなく、放送事業者の自己規律やBPOを通じた自主的な検証に委ねる本来の立場に立ち戻るよう強く求めると述べられています。
会長は、このBPOの意見の内容と同じ立場に立たれますか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 そのBPOの内容が発表されたその背景にある細かい事情について、私、本当に承知してございませんので、お答えはなかなか難しいんですけれども、基本的に、BPOがお示しになりましたお考え、そういう問題があればBPOの方で判断するという考え方は適切なのではないかというふうに考えております。
【伊藤岳 参院議員】 会長の選任についてお聞きしたいと思うんです。
会長、NHK会長の外部からの起用は、二〇〇八年以降十五年間で六代連続となりました。読売新聞二〇二二年十二月六日付けでこういう報道がありました。新会長の選任について首相官邸が大きな影響力を及ぼした、首相は水面下で稲葉氏に接触して口説き落とし、自民党の麻生副総裁や菅前首相ら総務相経験者への根回しを行った、こう報じています。
この報道、御覧になっていると思いますが、会長は、会長就任について、いつ、誰から話があったんでしょうか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 会長選考については、経営委員会が所定の手続にのっとって任命したものというふうに私理解しておりまして、その選考の詳しい過程は承知していないんですけれども、正確な日時ははっきり覚えていませんけれども、森下経営委員長から十二月五日に来てほしいという突然の御連絡があって、慌ただしく当日を迎えたというふうに記憶してございます。
【伊藤岳 参院議員】 森下経営委員長からのお話があったと。
実は、この人選について、ごく限られた会議録公開しかされていないんです。受信料で成り立つ公共放送として、国民・視聴者の理解はこれでは得られないと思うんですね。放送法の趣旨を踏まえて経営の透明性の確保を是非お願いしたい、求めたいと思います。
次に、かんぽ不正販売問題を報じた「クローズアップ現代+」、二〇一八年四月二十四日放送、に対する日本郵政グループからの抗議、圧力に屈して、予定していた第二弾の放送番組を取りやめた問題についてお聞きをしたいと思います。
経営委員会は、ガバナンスを口実にして、当時の上田会長を呼び付けて厳重注意を行いました。さらには、その際の経営委員会議事録をいまだに隠蔽をし続けています。NHK情報公開・個人情報保護審議委員会からも二度にわたる全面開示の答申を受け、二〇二一年七月八日に情報公開請求者に対し、二〇一八年十月から十一月に行った三回分の経営委員会の議論を粗起こしした資料、議事起こしを開示しましたが、ホームページ等での公表は要旨のみでして、いまだ議事録を全文としては公表していません。
会長、開示された議事起こしには、森下経営委員長の次のような発言も書かれています。番組の取材も含めて極めて稚拙、極めて作り方の問題があると書かれています。
これ、放送法の第三条、放送番組は何人からも干渉されないとの規定、また放送法三十二条二項の個別の番組編集への経営委員の関与を禁じていることにこれ違反するんではないでしょうか。新会長にはその認識おありですか。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 お尋ねでございますけれども、経営委員会の判断あるいは議論についてコメントする立場にはございません。
いずれにしても、放送の自主自律あるいは番組編集の自由が損なわれた事実はないというふうに認識してございます。御質問の番組を限らず、NHKは公平公正、自主自律を貫いて放送に当たってきておりまして、今後もこの姿勢に変わりはないということを申し上げたいと思います。
【伊藤岳 参院議員】 会長、森下経営委員長の発言、先ほど紹介しました。間違いなくこれ番組に関わった発言です。今の会長の認識は放送法の基本認識に関わる問題として重大だと指摘をしておきたいと思います。
松本大臣にお聞きします。
NHKの最高意思決定機関である経営委員会の透明性を確保するために、放送法の第四十一条は議事録の作成と公表を義務付けています。NHKは会長厳重注意の議事録を速やかに公表すべきではないですか。放送法を所管する大臣として議事録の公表を強く求めるべきだと思いますが、見解を伺いたいと思います。
【松本剛明 総務大臣】 NHKの経営委員会の議事録につきましては、放送法第四十一条に基づき、経営委員会の定めるところにより作成、公表を行うこととされているため、個別の議事録の取扱いにつきましては経営委員会において自律的に判断すべきものと考えております。
総務省といたしましては、令和五年度NHK予算に付した大臣意見において御指摘申し上げたとおり、NHKにおいては、国民・視聴者の受信料で成り立つ公共放送として、放送法の趣旨を踏まえて、引き続き経営の透明性の確保に努めていただきたいと考えているところでございます。
【伊藤岳 参院議員】 これでは国民の信頼は得られないと思うということだけ指摘しておきたいと思います。
二〇二三年度の予算の中身について伺っていきたいと思います。
二〇二三年度予算は、NHKが国会で受信料値下げを継続化する約束をした下で、十月からの受信料の値下げに伴う収支を計上しています。
勘定科目に還元目的積立金が設定をされました。繰越金を受信料の値下げ目的に充当することがこれで明確となり、受信料の値下げの継続を可能にするために更なる構造改革を推進し、新たな経営課題に対応する経営資源を捻出しますと書かれています。この還元目的積立金制度の設置は、受信料の値下げを目的化する予算編成と事業計画、つまり経費削減にならざるを得ないと思います。高い質を持ったNHKならではの番組のコンテンツの縮小や人件費削減などが懸念をされます。
衛星放送については五百九十九・一億円で、前年度より二十六・四億円の大幅減となっていますが、会長、なぜ二〇二三年度予算では衛星放送の番組制作費を大きく削減するのですか、お答えください。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 十月からの受信料値下げとそれに伴います今後の収支均衡化の中では、事業予算を削減していくという作業がどうしても不可欠でございます。
その過程の中で衛星放送の番組制作費等も削減するということになってございますが、しかし、再三ここで申し上げてございますように、事業予算の方の削減がこれからも続きますが、しかし、だからといってそこの番組の質が低下する、あるいは量的にも低下することがないように、言わばコンテンツの質、量共に充実させるように実は同時に運営を考えていかなきゃいけないということでございまして、公共メディアとしてコンテンツの質が下がることはあってはならないということで、デジタル技術などを活用しながら、質、量共に兼ね備えたコンテンツの制作、発信に取り組んでいきたいというふうに思っております。
【伊藤岳 参院議員】 会長、今質の高いコンテンツ、番組コンテンツを質下げるわけいかないと言われましたけど、しかし、今、NHKは要員の削減、人員の削減が続きまして、この番組制作そのものを支えられなくなっている現状があるんじゃないでしょうか。
NHKは、保有するメディアの整理、削減を見据えて、職員採用の規模の見直しや人件費の抑制に取り組むとしています。既に一九八〇年以降、六千六百五十二人の要員削減が行われてきました。二〇二三年度のNHK全体の要員数は一万二百六十八人で、一九七九年の一万六千九百二十人の約六割まで人員が減っています。そして、さらに二〇二三年度は百五十人の純減を見込んでいます。これらは番組の質の低下を招くことにつながるんだと私は思います。是非これ検証していただきたいと思います。
総務省は、4K、8Kの世帯普及の目標を掲げて推奨してきました。日本再興戦略二〇一六では、二〇二〇年に全国の世帯の約五〇%で視聴されることが目標として、推進のためのロードマップを作成し、さらに二〇二〇年度NHK予算に対する総務大臣意見では、4K、8K放送について、医療、教育等放送以外の分野での利活用や海外展開への寄与に努めることと意見を付していました。しかし、世帯普及率は現在約二六%にとどまっています。
総務大臣、総務省として検証はしているんでしょうか。
【松本剛明 総務大臣】 4K、8Kは国際的にも利用が着実に広がっており、我が国としても、特に4Kコンテンツの普及拡大に努めることに意義があると認識をしておりまして、IoTやAIなど第四次産業革命を支える情報通信環境整備の一つとしても4K、8Kの推進を掲げ、その普及に取り組んできたところでございます。
御指摘のとおり、現時点では約二五%程度にとどまっていると承知をしておりますが、4K、8K衛星放送を視聴することができる受信機の出荷台数は、本年二月末時点で累計一千五百六十七万台となって、引き続き増加をしているところでございます。
4K、8Kの普及目標に現時点で届いていない点については、目標を設定した時点に比べ平均使用年数が延びており買換えが進んでいないこと、視聴者へのアンケート調査を踏まえれば、4Kチャンネルが少ない点が受信機を買い換えない理由の一つとして考えられることなどが要因となっているものと考えられます。
こうした状況を踏まえまして、4K、8K放送の魅力を理解いただき、更なる普及を促すため、放送事業者、メーカー等と連携の下、受信方法や多彩な4Kコンテンツに関する周知広報活動などを行うとともに、NHKBSプレミアム廃止後の空き帯域などを活用して新たな4K放送を行う事業者の公募を本年三月から開始しているところでございます。
令和五年度予算に付した総務大臣意見におきましても、NHKに対しては、新4K、8K衛星放送については、普及に向けて、引き続き、4K、8Kならではのコンテンツの制作や受信環境整備に資する取組を積極的に行うとともに、他の放送事業者、受信機メーカー等の関連団体、事業者と連携しながら、公共放送の担い手としての先導的役割を果たすことを求めておるところでございます。
総務省としても、引き続き関係者と協力をしまして、4K、8K衛星放送の普及に向けて取り組んでまいりたいと考えております。
【伊藤岳 参院議員】 十分な検証が必要だと求めておきたいと思います。
NHKは、佐戸未和さんの過労死を受けて、二〇一七年十二月七日、NHKグループ働き方改革宣言を公表し、長時間労働を改め、過労による健康被害を起こさないと決意表明されました。
当参議院総務委員会でも、佐戸未和さんの過労死は重大として、三年連続で、記者が過労で亡くなった事実を踏まえ、過労死の再発防止のため、協会の業務に携わる者の命と健康を最優先に確保し、適正な業務運営と労働環境改善に全力で取り組むこととの附帯決議を採択をしています。
ところが、二〇一九年九月には、佐戸未和さんと同じNHK首都圏報道センターに勤務する副部長が過労死をされました。労働基準監督署からは、産業医による面接指導の受診率の低さが指摘され、対策が不十分であったことが明らかとなっています。
会長、この参議院の附帯決議は御存じですか。また、佐戸さんの過労死以降も長時間労働が改められていない実情、実態、今後どのようにしていくおつもりですか。お答えください。
【稲葉延雄 日本放送協会会長】 御質問の佐戸未和記者と同じ職場で再び職員が亡くなり、労災認定を受けたということは大変重く受け止めております。この話を私、着任後聞いてショックを受けたものでございます。
佐戸記者が亡くなって以降、記者の勤務制度を見直し、それから宿泊勤務の集約などを進め、NHK全体で働き方改革を推進し、健康確保の取組を幅広く進めてきたわけでございますけれども、一人一人の状況に合わせたきめ細やかな対応が十分ではなかったというふうに考えてございます。
今後は、個々人の健康状態に十分配慮し、健康確保と業務改善に丁寧に取り組んでいくということなんでございますけれども、基本的には健康を最優先する、NHKとしての企業風土といいますか、組織風土を完全に定着しなければいけないというふうに考えてございまして、こういう努力を通じて再発防止に全力で努めてまいりたいと思っております。
【伊藤岳 参院議員】 はい、まとめます。
御遺族は、職員の命を危険にさらすほどの勤務を認めてきたNHKを厳しく批判しています。人件費抑制、要員削減などの問題を含めて深い検討と検証を求めて、質問を終わります。