議事録
【伊藤岳 参議院議員】
日本共産党の伊藤岳です。会派を代表し、電波法及び放送法改正案について総務大臣に質問いたします。
初めに、放送法の改正案についてです。
公共放送としてのNHKに求められていることは、放送の自主自律を遵守し、視聴者・国民からの理解と信頼を得られる質の高いコンテンツを提供する役割を果たしていくことです。
その点からも重大なことは、かんぽ不正販売疑惑を報じた「クローズアップ現代+」をめぐる問題です。
二〇一九年四月の「クローズアップ現代+」に対する日本郵政グループからの抗議に屈服し、NHK執行部は、予定していた第二弾の放送を取りやめました。また、経営委員会は、放送番組は何人からも干渉されないと定める放送法第三条及び第三十二条二項に違反して、ガバナンスを口実に、上田良一前会長を厳重注意とした上、この重大な決定を行った際の経営委員会の議事録を公開せず、今もなお事実を隠蔽し続けています。
第三者機関であるNHK情報公開・個人情報保護審議委員会の二度にわたる答申を経て、昨年七月、経営委員会はようやく議事の粗起こしを開示しました。その中でも、日本郵政からの圧力に迎合する経営委員会の対応が生々しく記されています。NHK経営委員会の議事録は、全面公開するのが当然ではありませんか。
介入を主導した当時の経営委員長代行が現経営委員長として居座っていることなど、異常な事態であると思いませんか。
さらに、今、番組制作局や報道局に所属するNHK内部の職員から、前田会長よ、NHKを壊すなとの告発が上がっていると報じられています。二〇二〇年一月の就任以来、スリムで強靱なNHKを掲げ、七百億円の経費削減を推し進める前田晃伸会長の人事育成システム、コストカット、リストラなどが、良い番組を作ろうという高い志を持つ職員の心を踏みにじり、番組の質を劣化させ、災害報道や選挙報道にもゆがみをもたらしているなどの告発内容は、痛切で深刻であります。
告発では、さらに、前田会長の下では、政権の圧力を許し、番組内容をゆがめることが平然と行われていると指摘をされています。事実であれば、NHKの在り方を根本から問う重大なものではありませんか。総務大臣の認識を伺います。
改正案の内容は、NHKの在り方に深く関わるものです。以下、質問します。
第一に、NHKの受信料値下げのために還元目的積立金制度を創設する問題です。
経営計画の期間で蓄積された繰越金のうち、総務省令で定める計算額を還元目的積立金として積み立て、次期経営計画の期間の中で受信料を引き下げる原資とします。
そもそも、NHKの収支予算は、言論報道機関としてのNHKの自立性を確保し、公共放送としての責務の履行を判断することなどの要請から、国会の承認議決を得るとされています。受信料は、国会の承認議決に基づいて定め、政府、大臣には調整権もありません。総務省令による計算に行政や政権の恣意的判断が入らないという具体的な根拠はあるのでしょうか。
改正案は、NHK収支予算の承認議決という国会の重要な役割を後退させ、NHKの自立性を脅かすものではありませんか。菅前政権は、所信表明で、NHK受信料の値下げを明言し、NHKに対する介入姿勢をあらわにしました。還元目的積立金制度を導入するならば、今後は、行政や政権からの介入を許す制度的な足掛かりとなるのではありませんか。
さらに、この制度は、NHKに業務の効率化、コストカットありきの予算策定を迫り、良質なコンテンツを提供するための予算の確保や人材の育成に深刻な影響を及ぼすことになるのではありませんか。
第二に、新たに中間持ち株会社を設立して、NHKの子会社、関連会社などの業務の効率化、コストカットを進めることです。
これまで、NHKの子会社、関連会社などの業務管理やガバナンスのチェックはそれぞれの会社ごとに行われてきました。なぜ、子会社、関連会社などの管理部門を集約し、役員、従業員数を合理化し、重複業務を排除することを専らに行う中間持ち株会社を設立する必要があるのですか。答弁を求めます。
第三に、正当の理由がなく、期限までにNHK受信契約を締結しない者に対して受信料の割増金を課す問題です。
公共放送の意義を丁寧に説明し、国民の理解と合意を得ることに背を向けて割増金に頼るならば、NHKに対する信頼は一層遠くなるのではありませんか。
二〇一七年十二月六日の最高裁判決は、受信料制度は合憲であり、受信契約の締結は法的義務であるとしました。しかし、NHKは、これをもって一方的な支払を迫ることはしないと国会で繰り返し答弁してきました。この対応方針は守られるのですか。
次に、電波法の改正案についてです。
電気通信技術の開発、発展は、国民生活の利便性向上の基盤となるものです。電波は国民の共有財産であり、かつ有限な資源です。その公共性にふさわしい電波利用の在り方が求められます。総務大臣の基本認識を伺います。
第一に、電波利用料の使途に研究開発のための補助金交付を追加する問題です。
改正案は、電波利用料をビヨンド5Gの実現などに向けた研究開発に使うとしていますが、日本の企業が国際市場での競争力を確保するための研究開発ではありませんか。
電波利用料は共益費としての性格を持ち、その使途は限られ、国民が広く電波を利用しやすくするために使われるものです。企業の国際競争力強化のための技術開発支援に使うことは、電波利用料の使途とは相入れないのではありませんか。
第二に、周波数の再割当てを促進する新たな仕組みについてです。
携帯電話通信網は、既に国民生活に欠かせないインフラです。新規事業者への再割当てありきで進めれば、電波がつながらないなど、既存の携帯電話回線の利用者に一時的にせよ不利益が及ぶことになります。その認識と対策はありますか。
電波の有効利用評価を総務大臣から電波監理審議会に移し、電波監理審議会は総務大臣に勧告を行うとされます。総務省は、進展が著しい技術開発の知見を有する委員で構成された新たな部会を設置するとしています。しかし、大学などの識者であっても産官学協同のコンソーシアムに加わっている場合がほとんどです。電波の再割当ては利害関係者の対立が大きく、企業とのつながりがあれば公平中立な判断に懸念が生じるのではありませんか。
電波監理審議会の権能を強化しますが、言論、表現の自由や国民の知る権利を保障し、電気通信事業におけるプライバシーの保護を始め国民、消費者が安心して電波を利用できるために、政治権力と事業者からの独立性が確保されることが重要です。電波監理審議会の在り方を根本から見直すべきではありませんか。
最後に、外資規制です。
外資規制の実効性を高めることは必要です。改正案は、違反があった場合、是正のための猶予期間を与えることができるとしています。猶予期間を与える基準について、その客観性と透明性はどう担保されるのですか。
以上述べて、質問といたします。(拍手)
【金子恭之 総務大臣】
伊藤議員からの御質問にお答えいたします。
まず、NHK経営委員会の議事録について御質問いただきました。
NHK経営委員会の議事録については、放送法第四十一条に基づき、経営委員会の定めるところにより作成、公表を行うこととされているため、個別の議事録の取扱いについては、経営委員会において自律的に判断すべきものと考えております。
総務省としては、NHK予算に付した大臣意見において指摘したとおり、NHKにおいては、国民・視聴者の受信料で成り立つ公共放送として、放送法の趣旨を踏まえて、引き続き、経営の透明性の確保に努めていただきたいと考えております。
次に、NHK経営委員会の委員長の選任について御質問いただきました。
経営委員会の委員長の選任については、放送法第三十条第二項の規定に基づき、委員の互選によって行うものとされているため、総務省としてお答えすることは差し控えさせていただきます。
次に、NHK職員の告発に関する報道について御質問いただきました。
報道があったことは承知していますが、総務省として事実関係を把握しておりませんので、お答えは差し控えさせていただきます。
次に、還元目的積立金の算出方法について御質問いただきました。
本法案では、総務省令において、NHKが財政安定の観点から留保できる剰余金の具体的な基準を定めることとしておりますが、その基準を可能な限り客観的なものとしてまいりたいと考えております。この総務省令を定める際には、パブリックコメントを行うなど、国民の皆様の御意見も丁寧にお伺いしながら検討を進めてまいります。
次に、還元目的積立金と、NHKの自立性や予算策定などに与える影響や、行政などによる介入との関係について御質問いただきました。
還元目的積立金を導入した場合でも、受信料の額を含む毎年度のNHKの収支予算については、これまでどおり国会から御承認をいただく必要があり、その基本的な枠組みについて何ら変更はございません。他方で、合理的な理由がある場合、剰余金を必ずしも受信料の引下げに充てる必要はなく、NHKに一定の裁量の余地を認める柔軟な仕組みとしております。
したがいまして、今般の積立金制度がNHKの自立性や予算の策定などに影響を及ぼすという御指摘は当たらないと考えております。
次に、中間持ち株会社制度を整備する理由とその意義について御質問いただきました。
中間持ち株会社によるNHKグループの経営管理を認めることとしたのは、グループ内での重複業務の排除などにより、グループ全体の業務を合理化、効率化し、NHK本体の支出抑制につなげるためであります。NHKの業務の財源は、国民・視聴者の皆様から御負担いただく受信料で賄われていることから、NHKグループの業務の合理化、効率化を図ることは必要であると認識しております。
次に、公共放送の意義についての国民への丁寧な説明と、最高裁判決を踏まえたNHKの対応方針について御質問いただきました。
受信料制度は、公共放送に対する国民・視聴者の皆様の御理解の下に成り立っているものであり、本法案では割増金制度が整備されたとしても、NHKが国民・視聴者の皆様に丁寧な説明を行い、十分な理解をいただいた上で受信契約を結んでいただくことが重要と考えております。
NHKにおいては、割増金制度をもって一方的に支払を求めるのではなく、引き続き丁寧な説明に努めていただく必要があるという点について変わるものではございません。
次に、電波の公共性にふさわしい電波利用の在り方に対する基本認識について御質問いただきました。
電波は、今や国民の日常生活や社会経済活動において欠かせないものとなっており、デジタル田園都市国家構想を実現する上でも不可欠なインフラとなっております。総務省としては、電波が有限希少な国民共有の財産であることを十分に踏まえ、その一層の有効利用に取り組むとともに、その便益が広く国民や社会経済に及ぶようしっかり取り組んでまいります。
次に、電波利用料の使途の追加や、その位置付けについて御質問いただきました。
電波利用料の対象となる研究開発は、いずれも電波の能率的な利用を促進し、周波数全体の逼迫の緩和を図り、無線局の免許人等の全体の受益につながるものとしております。
ビヨンド5Gについては、二〇三〇年代の社会の基盤となることが期待されていることから、その早期実現のため、電波法の規定に基づき、おおむね五年以内に開発すべき電波の有効利用に資する技術として、電波利用料を充てて研究開発に取り組むものであります。
次に、周波数の再割当てに関して、利用者への影響とその対策について御質問いただきました。
本法案では、既存の免許人に対して、事前に十分な意見聴取を行うとともに、周波数を移行する期間を適切に設定することとしており、利用者への影響ができる限り生じないよう努めてまいります。
なお、一般的に、携帯電話事業者は複数の周波数帯を保有し、携帯電話の端末はそれらの周波数帯に対応しているため、一つの周波数帯を返上しても、直ちに利用者に大きな影響が生じることはないと想定しています。
次に、電波監理審議会委員と企業とのつながりについて御質問いただきました。
本審議会の委員は、電波法において、放送事業者、認定放送持ち株会社、電気通信事業者、無線設備の機器の製造業者、販売業者などや、その役員は、本審議会の委員となることができないこととされております。本審議会の下に設置する部会の特別委員の人選についても、こうした法の規定を踏まえて、公平、中立性がしっかりと確保できるよう検討してまいります。
次に、電波監理審議会の在り方について御質問いただきました。
電波行政の運営においては、その透明性、客観性の確保が重要と考えており、第三者機関である電波監理審議会がその役割を担ってまいりました。さらに、本法案においては、本審議会の機能を強化し、主体的に電波の利用状況を評価、提言できる仕組みを導入するなど、更なる透明性、客観性を確保することとしています。今後も、電波行政について不断の見直しを行ってまいります。
最後に、外資規制に違反した場合の猶予措置における基準の客観性と透明性について御質問いただきました。
本法案においては、外資規制に違反した場合に一定の猶予期間を定めて放送局の免許などを取り消さないことができるとしておりますが、その決定に当たっては、勘案すべき事項などについて法律で定めております。また、その決定を免許人などに対して通知する場合には、理由を付すこととしております。このような枠組みを通じて、猶予措置の客観性と透明性を確保してまいりたいと考えております。