議事録

2022年2月9日 国際経済・外交調査会「グローバル化の中での海におけるネットワークの役割と課題」(参考人の意見聴取)

[議事録]2022年2月9日 国際経済・外交調査会(参考人の意見聴取)

【伊藤岳 参議院議員】

 日本共産党の伊藤岳です。
 参考人の皆さん、今日は貴重な御意見ありがとうございました。
 中国の、力による現状変更の動きは断じて許されません。伊藤参考人の事前配付資料の中で、こういうくだりがありました。国家間の対立の源泉が陸よりも海洋や宇宙空間という、これまで国境線などの境界線が引かれなかったところこそが対立の源泉となっているとして、アジア太平洋地域においても現状変更のために軍事力をちらつかせる中国のやり方を指摘されていまして、なるほどと思いました。
 また、○○ファーストが各国から強調される中で、人間の歴史は戦争の歴史であるとともに、やらなくてもいい戦争をやらないように努力してきた歴史であると述べられて、やらなくていい戦争をやらないような制度構築が必要、また、複数の国家間で国際協調することが欠かせないと述べられています。これも重要な視点だと感じました。
 そこで、伊藤参考人に伺います。
 やらなくていい戦争をやらないために複数の国家間で国際協調するという点では、ASEANの実践などが挙げられると私は思っています。先ほどASEANの難しさもあるという話もありましたけれども、このASEANの実践も含めて、国際協調という点での教訓的な取組の事例、御紹介いただければと思います。

【伊藤剛 明治大学政治経済学部教授】
 私がこの文章の中で、人間の歴史は戦争の歴史であると同時に、やらなくていい戦争をどうやったらやらないようにできるだろうかということを考えてきた歴史だということは述べました。これは、やっぱりそういうことが合意できる最大の機会というのは、やっぱり戦争が終わった直後なんですよね、基本的に。
 そういうこともありますので、例えば、古くは中世のときの正戦論から始め、無差別戦争観、それから、いわゆる陸戦、海戦に関する条約、十九世紀末から二十世紀にかけてできた条約等々によって、少なくとも、戦争も、何でもよしじゃなくてルールがちゃんとあるんだというような形で少しずつその整備をされてきたという歴史があるわけであります。そういった事柄を参考にした上で、人間の歴史はただ戦ってきたわけではないんだということを強調したかったわけでございます。
 では、そのASEANがその場になるのかということについては、ASEANの成立の過程は二つ理由がありまして、一つはもちろん、ベトナム、ラオス、カンボジア等々の共産圏に対して、自分たちはそうではないということを言うということと、あと同時に、南ベトナムを見ていて、自分たちはアメリカのかいらいにはならないんだという、この二つの大きな目的があったわけですから、そのASEAN自身がトークショップと言われ、いろんなことは討議するけどなかなか決まらないと。で、話し合うテーブルがあるということは重要である、でも、例えば最近のミャンマーの問題も含めてそうですけれども、じゃ、具体的な行動が何ができるのかということに関しては、やっぱり極めて行き届いていないところもあることも事実ですので、やっぱりその安全保障の基本的な考え方といいますのは、海も含めてそうなんですが、やっぱり話をするということとそれを実行に移すという二つが重要であります。
 最初の話に戻りますが、陸のように境界線がある程度明確であるところ、あなたの陣地と私の陣地を分けることによって、そこから侵入すると戦争ですよという線を引くことが陸上ではある程度可能であったんですが、海の上、それから宇宙等々ですね、新しい分野が科学技術の発展とともにどんどん出てきているという状況ですので、ファジーなところほど大体対立や紛争は起きる傾向が高いという意味でそれは書いたということを考えております。
 以上です。

【伊藤岳 参議院議員】
 いろいろな側面があるというお話でしたが、先ほど来、伊藤参考人、対話のテーブルを閉ざさないということを強調されていますが、ASEANでは年間千回に及ぶ会合を開くなどの努力もあると聞いています。
 こういう中で、少なくともASEANの地域がもめ事が生じたときに紛争や戦争には発展させないという地域にはなっているということは間違いないでしょうか。

【伊藤剛 明治大学政治経済学部教授
 それもイエス・アンド・ノーのところが両方あるかと私は思います。
 現に、歴史的に見ると、ベトナムとカンボジア、カンボジアとタイ等々、その国境の辺りで小競り合いが大なり小なり起きているわけでありますので、そうやって考えますと、そのASEANが全てにわたって、じゃ、戦争をある程度防いできたかということに関して、もちろんそういう面もあると思いますけれども、じゃ、完全に防ぐことができたのかということに関して、私は疑問を持っているわけであります。
 同じように、日本と中国と韓国に関しても、その日中韓のTCSの、トライラテラル・コーポレーション・セクレタリアートという機構がずっとあるわけですが、これも、その政府間の会合と同時に、シンクタンク同士のネットワークというのも毎年毎年コロナになる前は行われておりました。
 そこでやっぱり出てきた話というのは、やっぱり特に日中韓の場合は非常に難しいなと思ったのは、すぐに関係が悪くなると対話しないという、それはそのトラック1にしてもトラック2でも、政府間も民間同士もそうですので、そういうことではいけないだろうということで、少なくともトラック2、民間同士の対話というのは、TCSの場でなくても構いませんけれども、やっぱり常に恒常的に持っていくと。特に、その大国といいますか、そのアジアにおける主要な国同士こそ、やっぱり対話を閉ざすことになると、それこそ本当にもう何にも話をしない、そして、そのいぶかしげな感覚がどんどん増幅していくということは避けるべきであるというふうに思うわけであります。
 以上です。
【伊藤岳 参議院議員】
 もちろん完全ではないがというような、ありましたけれども、是非、先生も強調された、対話を閉ざさず、やらなくていい戦争にならないような努力が重要だと思います。
 石井参考人に伺います。
 先ほど、対中関係の中で何が大事かということで、国際法を守っているというソフト面での対応の大事さというのを言われ、おっしゃられましたけれども、先ほど述べたASEANでも、ASEANに加えて、米国、中国、ロシア、日本も含めた東アジア・サミットが開催されて、行く行くこれを東アジア規模の友好協力条約を目指すという構想があります。こうした法的な枠組みでの動きの展望や可能性、またここに日本が加わっていくということでの意義など、お感じになられることをお聞かせいただければと思います。

【石井由梨佳 防衛大学校准教授】
 ありがとうございます。
 国際法の大きな役割としまして、それぞれの国がどういった権利義務を持っているのかということを明らかにし、かつ、その既存の国際法の基盤として、平和的に国際協力を進めていくという大原則がありますので、それに従って国際協力を進めていくということについては大きな意義があるのかなと思っております。
 他方で、国際法ができることにもやはり限界はあるのだろうと思います。国際社会には国を超える上位機関というものがありませんので、もちろん協力できる部分については積極的に条約を締結してコミットしていくということは必要ですし、実際行われていますけれども、やはりその根本的な利害が対立するところについてはなかなかそういった協力がしにくいというところはあるのかなと思います。
 ですから、国際法の重要性というものはやはりしっかり認識しておくことが必要ですし、また、それが日本政府のソフトパワーの向上にもつながると信じておりますけれども、他方で、やはりそれだけでできるということについては限界がありますので、その限界についても踏まえておく必要があるところだと認識しております。
 以上です。
【伊藤岳】
 力には力でという対応ではない外交を是非模索していきたいし、日本政府にも強く求めていきたいと思います。
 時間の関係で合田参考人まで参りませんでした。申し訳ございません。
 ありがとうございました。終わります。