【伊藤岳参議院議員】
日本共産党の伊藤岳です。私は、日本共産党を代表して、デジタル関連五法案に対する反対討論を行います。
デジタル技術の発展と普及によって、行政等の業務や手続を効率化すること、国民生活の利便性を向上させることは大切です。しかし、それは、行政機関が保有する膨大な個人情報の利活用を国民自らが監視、監督できる法整備、体制整備と一体に行わなければなりません。
しかし、本法案には、個人情報のビッグデータ化、顔認証などAIの普及の下での個人情報保護、個人の基本的人権尊重のための新たな規定も、その考え方さえも欠落しています。行政機関が特定の目的のために集めた個人情報をもうけの種として、本人の同意もないままに目的外利用、外部提供し、成長戦略や企業の利益につなげようとするものです。
この間、官業の開放といって、行政サービスの切り売り、民営化が推進されてきました。今度は行政が保有する個人情報まで営利企業へ開放しようというものではありませんか。公的部門の個人情報は、公権力を行使して取得されたり、申請、届出に伴い義務として提出されたりするものがほとんどです。だから公的部門はより厳格な個人情報保護が必要とされてきたのです。守るべき個人情報をもうけの種とすることが行政の仕事と言えるでしょうか。
反対理由の第一は、個人情報保護をないがしろにして、プライバシーを侵害するおそれがあるからです。
政府機関等が本人同意を得ずにデータを外部提供できる非識別加工情報制度の実態が参議院の審議の中で浮き彫りとなりました。
既に、国や独立行政法人は、大量の個人情報ファイルを非識別加工し、民間利活用の提案募集に掛けています。横田基地騒音訴訟の原告の方々の情報や国立大学の学生の家庭事情、受験生の入試の点数まで、データ利用したい民間事業者からの提案募集の対象としてきました。
データ提供された事実を本人に通知しないばかりか、私の情報は提供対象から外してほしいと要求しても、本人から自らの個人情報の利用の停止や削除について請求できる規定はないと平井デジタル改革担当大臣が認めています。幾ら特定の個人を識別できないように加工したものだと言い訳をしたところで、プライバシーに関わる情報を本人が知らぬ間に行政から民間へデータ提供するのがこの制度です。
また、一昨年発覚したリクナビ事件のように、この間のプロファイリング、スコアリングが個人の人生に大きな影響を与える事態を引き起こしています。個人情報保護委員会は、厳格に対応すると言いつつも、結果として、個人の権利利益が侵害されるかどうかで対応すると繰り返し、作成している個人情報保護法二〇年改定のガイドラインにリクナビ事件を例示するとすら明言しませんでした。
現行の個人情報保護法は、個人情報の範囲が狭く、閲覧履歴等の端末情報は保護されていません。プライバシーポリシーなど利用目的が公表されていれば、本人に自覚がなくても同意したとみなされます。インターネット上に残る個人のデータの削除、消去、利用停止といった忘れられる権利からは程遠く、プロファイリングに関する規定も明記されていません。
個人情報の保護、権利保障の仕組みをAIなどデジタル技術の進展に対応させることが急務です。しかし、このデジタル関連法案にはこの観点が欠けています。個人情報は個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであり、プライバシーを守る権利は憲法が保障する基本的人権です。個人情報保護法は、個人の権利を明確にし、プライバシー権の拡充が必要です。どんな自己情報が集められているかを知り、不当に使われないように関与する権利、自己情報コントロール権、情報の自己決定権を保障することが今こそ必要です。
さらに、本案は、個人情報保護法の一元化により、地方自治体が独自に制定する個人情報保護の条例にも縛りを掛けるものです。匿名加工した個人情報を外部提供するオープンデータ化を都道府県や政令市に義務化し、条例による個人情報のオンライン結合の禁止を認めないとしています。
個人情報保護の仕組みを切り捨て、市民が築き上げてきた保護のための制度を壊すことは許されません。
また、政府は、マイナポータルを入口にして、個人情報を更に集積しようとしています。集積された情報は攻撃されやすく、一度漏れた情報は取り返しが付きません。政府だけでなく、地方自治体にも、医療、教育といった準公共部門にも利用されようとしているガバメントクラウドは、整備するデジタル庁のアクセス権は不透明なままで、システムの巨大化が更なる下請を生み出し、プライバシー侵害の懸念が拭えません。
第二は、地方自治に対する侵害です。
本案では、国と自治体の情報システムの共同化、集約化を掲げており、地方自治体は、国がつくる鋳型に収まる範囲の施策しか行えないことになりかねません。
現行の自治体クラウドにおいても、地方自治体のカスタマイズを認めないことが問題となっています。住民福祉の向上などのためにこれまで地方自治体が独自に実施してきた業務が、行政の効率化、財政健全化を理由に削られていくことは明らかです。
また、強力な権限を持つデジタル庁は、国の省庁にとどまらず、地方自治体や準公共部門に対しても予算配分やシステムの運用について口を挟むことができるようになります。また、個人情報保護委員会が条例作りに関与できるようになっていることも重大です。
自治体の独自施策を抑制させることは、地方自治への侵害であり、認めることはできません。
第三に、国民にマイナンバー制度を押し付けようとしていることです。
本案では、個人の預貯金口座のマイナンバーひも付けなどを盛り込んでいます。マイナンバー制度は、国民の所得、資産、社会保障給付を把握し、国民への徴収強化と社会保障費の削減を進めるものです。そもそもマイナンバー制度は廃止すべきです。
委員会の質疑でも、また参考人質疑でも、今回の法案が監視社会につながる懸念が多数示されました。EUのGDPR、一般データ保護規則は、そうならないようデジタル化に対応した個人情報保護の強化を図るために作られました。また、EUでは、自分のデータを自分で管理するデジタル民主主義の取組、個人起点のデータ流通システムが始まっています。こういう方向にこそ、監視社会ではなく、真に人々の暮らしのためにデジタル化を生かす道があるのではないでしょうか。このことを強く指摘をしたいと思います。
今、国民は新型コロナ克服のために苦闘中です。政府はコロナ対策に全力を傾注すべきときであることを強調し、討論とします。