議事録

2021年4月20日 総務委員会(プロバイダー責任法)

【伊藤岳参議院議員】

 日本共産党の伊藤岳です。インターネット上の名誉毀損、著作権やプライバシー侵害などに当たる悪質、不当な情報流布から国民の権利をいかに守るか、その一方で、市民が情報の発信者になるインターネットの大きな特性を守り、自由な言論をいかに保障し拡大をするのかということは、IT社会の最重要課題の一つだと思います。本改正案が名誉毀損やプライバシー侵害などから国民の権利をどのように守るのか、自由な言論と市民の情報発信の権利と機会をいかに守るのかという観点から質問をしたいと思います。

 資料をお配りしました。御覧をいただきたいと思います。木村花さんの事件で、情報開示でメアド特定という報道記事、読売の四月六日付けの記事です。この二段目後ろから八行目ですね。証拠収集のため米国の裁判所に証拠開示を申し立てたところ、米ツイッター社が三月下旬、福井県の男の情報を開示したという。警視庁は遺族側からの情報提供を受け、男から任意で事情を聞いたところ、男は容疑を認めたと。こういう報道であります。そして、四月五日に書類送検をされたと伝えています。亡くなった木村花さんのお母さん、響子さんは、一番下の段の後ろから六行目になりますが、無責任な書き込みで追い詰められてしまうことがないよう、SNS事業者の協力が必要と痛感していますとコメントを出されております。

 そこで大臣に伺います。インターネット上での誹謗中傷について、木村花さんの母親のSNS事業者の協力が必要とのコメント、これをどう受け止め、認識をされるでしょうか。

 

【武田良太総務大臣】

 御指摘のとおり、発信者情報開示制度の円滑な運用を実現するためには、プロバイダー側の理解と協力の促進が必要不可欠であると認識をしております。こうした観点から、総務省としては、アクセスプロバイダーとコンテンツプロバイダー間の連携体制の構築や事業者間でのノウハウ共有といった取組を進めております。また、裁判外における任意の開示に資するよう、プロバイダーに助言を行う民間相談機関の充実や開示事例のガイドラインへの集積などの取組を総務省として支援していくこととしております。

 こうした取組により発信者情報開示制度に対するプロバイダーの理解と協力が促進されるものと考えており、引き続き関係機関や団体と連携して取り組んでまいります。

 

【伊藤岳参議院議員】

 総務省には、プロバイダー自身による契約約款や利用規約等に基づく迅速な開示、被害者救済へ誠実に向き合う姿勢を強く求めたいと思います。

 新谷副大臣にお聞きします。二〇二〇年九月に公表したインターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージでは、事業者に対してどのような対策を促していますか、お示ししてください。

 

【新谷正義総務副大臣】

 総務省におきましては、インターネット上の誹謗中傷への対応に関しまして、昨年九月に策定した政策パッケージ、これにおきまして、プラットフォーム事業者による削除等の対応及び透明性、アカウンタビリティー確保を促進することとしてございます。具体的には、プラットフォーム事業者に対して個別の働きかけを行うとともに、本年二月に開催された有識者会議におきまして、プラットフォーム事業者からは、まずは誹謗中傷などに関する削除件数、透明性レポートの公開状況、日本における削除要請に対応する体制などについてヒアリングを実施するなどの対応を行っているところでございます。

 今後は、有識者会議におきまして、プラットフォーム事業者による取組が適切に行われているか、あるいは効果が十分に上がっているか、透明性の確保が十分に図られているか、こういった点を御議論をいただきまして、夏頃までに事業者による取組の効果検証を行っていただく予定となってございます。総務省としましては、この効果検証の結果を踏まえて、しっかり適切に対応してまいりたいと考えてございます。

 

【伊藤岳参議院議員】

 これまで任意開示がされない理由として、権利の侵害が明白であると判断できなかったというものでした。実際上は、発信者からの責任追及リスクをプロバイダーが回避する理由にされていると有識者会議でも委員から指摘をされております。

 総務省にお聞きします。インターネット関連事業者が加盟するセーファーインターネット協会が四月五日に権利侵害明白性ガイドラインを公表し、プロバイダーの相談窓口を設置しました。この権利侵害明白性についての議論の経緯や権利侵害明白性ガイドラインの議論の、ガイドラインの概要についてお示しをいただきたいと思います。

 

【竹内芳明総務省総合通信基盤局長】

 総務省の有識者会議におきまして昨年八月に取りまとめられました中間とりまとめで、プロバイダーに助言を行う民間相談機関の充実、裁判手続において開示要件に該当すると判断された判例等をガイドラインに集積することなどの民間事業者における取組を総務省として支援していくこととしていたところでございます。

 これを踏まえまして、通信事業者の団体である一般社団法人セーファーインターネット協会において設置された有識者会議において、任意開示の促進に向けた施策の検討が行われた結果、今月五日に権利侵害明白性ガイドラインが策定、公表されました。また、同ガイドラインに関する理解を深めるため、プロバイダーからの同ガイドラインに関する相談を受け付ける窓口が設置されたと承知しております。同ガイドラインは、プロバイダーにおける任意開示の判断に際して参照することで、適切な任意開示の促進につながるよう、プロバイダーが容易に名誉毀損が明白であると判断可能な類型を示すとともに、参考となる判例を集積したものでございます。

 総務省としては、引き続きこうした民間事業者における取組を支援してまいりたいと考えております。

 

【伊藤岳参議院議員】

 本改正案は、インターネット上での名誉毀損やプライバシー侵害の被害、侵害を受けた被害者の円滑な救済を図るために、発信者情報開示について非訟手続を創設することになります。竹内局長、インターネット上の違法・有害情報の流通状況について、先ほども若干お示しがありましたが、総務省の資料では、二〇一〇年からの十年間で約四倍に相談件数が増加、相談件数は高止まり傾向とされています。現行法下で、発信者情報開示の仮処分申立ての統計を教えてください。

 

【竹内芳明総務省総合通信基盤局長】

 お尋ねの現行法制下での発信者情報開示の仮処分申立ての件数につきまして、全国的には把握できておりませんが、東京地方裁判所における件数について、年々増加傾向にございます。令和元年度は六百三十件でありまして、ここ五年間で約二・五倍となっております。

 

【伊藤岳参議院議員】

 非訟手続を導入すると、当然非訟手続による対応件数、また、開示までの所要日数などを把握し統計を取ることになると思います。そして、このデータを適切な被害者救済になっているのかの検証に生かしていただきたいと要求しておきたいと思います。

 ツイッター社やグーグルなど海外事業者を相手方とした事件は、現在、民事訴訟法第四条四項、民訴規則六条の二で東京地裁の所管になっています。本改正案では、今まで条文に明記されていなかったこの管轄が、民訴法に則して第十条に記載をされました。先ほどもお話がありました。一般的に、誹謗中傷を受けた被害者が仮処分を申し立てると、印紙代、弁護士費用も掛かるし、金銭的負担は大きいものがあります。パブコメでも、誹謗中傷を受けた地方在住者が発信者情報開示仮処分のために東京地方裁判所に二回通うとなると更に旅費が十万円以上掛かることが分かって、開示請求を断った、断念したという事例もありました。

 竹内局長、日弁連も、発信者情報開示の管轄を被害者の住所地とするよう管轄の規定を設けるべきだと要望書を出しています。検討していますでしょうか。

 

【竹内芳明総務省総合通信基盤局長】

 まず、改正法におけますこの裁判管轄の考え方でありますけれども、これは民事訴訟法における規律を参考として定めたものでございます。これはもう委員も御存じかと思いますが、相当な準備をして訴える原告と不意に訴えられる被告の立場の調整の観点から、原告は被告の法廷に従うとするのが原則でございます。このため、プロバイダーの主たる営業所等の所在地を管轄する地方裁判所として規定をしているわけでございます。このほか、本件につきましては、専門性が高いということから、東日本の場合には東京地裁、西日本の場合には大阪地裁にも裁判管轄が認められる旨の規定を置いてございます。

 この点、委員の御指摘のあった点については承知しておりますけれども、新たな裁判手続におきましては、地方在住の被害者の方にとって負担とならない方法により、開示命令の審理を進めることが可能と考えております。具体的には、開示命令事件における審理方法は、陳述の聴取でありますところ、裁判所は手続の期日を開かずに書面による審理結果に基づいて判断を行うことも可能であります。また、当事者が遠隔の地に居住している場合などには、当事者の意見を聞いた上で、電話会議システム及びテレビ会議システムを利用することで手続期日を開くことも可能であります。こういった規定を適切に活用することで、地方所在の被害者の負担とならない方法により、開示命令の審理を進めることができるものと考えています。

 

【伊藤岳参議院議員】

 非訟手続導入後、様々な事例を検討して、改善が必要ならば改善をするという方向で対応をしてもらいたいと思います。

 特定電気通信役務提供者に対する訴状等の送達について聞きます。外国送達だと手間や時間が掛かり、法人によっては審尋期日呼出し状を送達している間にIPアドレスの保管期限が切れてしまって、開示したいデータが消えてしまうという課題がありました。竹内局長、本法案ではこれにどう対応していますか。

 

【竹内芳明総務省総合通信基盤局長】

 本改正案の開示命令制度におきましては、簡易な方法により相手方に申立書を送付することができるとしておりますので、異議の訴えに移行しない限り、手続全体に掛かる時間が一定程度短縮されることが想定されます。例えば、送付方法として、国際スピード郵便、EMSなどで開示命令申立書を送れば足りるというものでございます。

 

【伊藤岳参議院議員】

 非訟という簡便、迅速な手続となっていきます。同時に、申立てから開示命令まで短縮するためには、私、裁判所の職員の増員も必要だと思います。このことは一つの課題として提起をしておきたいと思います。

 続いて、発信者情報開示の扱いについて聞いていきたいと思います。まず、武田大臣にお聞きします。インターネットの持つ大きな特性の一つは、市民が情報の発信者になることではないでしょうか。この特性を守り、自由な言論をいかに保障し拡大するかは重要な課題だと私思います。この点、大臣の認識を伺いたいと思います。

 

【武田良太総務大臣】

 御指摘のとおり、インターネットは誰もが手軽に情報を発信し、受けることができる双方向のメディアとして発展してきており、ネットにおける発信者の表現の自由を確保することは重要と認識をしております。

 一方で、インターネット上の誹謗中傷により被害者が発生していることも事実であり、総務省ではこれまで、被害者救済と表現の自由という重要な権利利益とのバランスに配慮しつつ、プロバイダーにおける円滑な対応が促進されるような環境整備を行ってきたところであります。今後とも、こうしたバランスに配慮しつつ、適切に対応してまいりたいと考えております。

 なお、発信者の利益保護のための仕組みは本改正法案においても確保されており、例えば、新たに創設される裁判手続において現行法における発信者情報開示請求の要件を維持するとともに、開示請求を受けたプロバイダー等に発信者に意見を聞くことなどを課すなど、発信者に十分な配慮がなされていると考えております。

 

【伊藤岳参議院議員】

 発信者情報の開示は適正に行われるべきなのは言うまでもありません。発信者情報開示の在り方に関する研究会の委員からは、開示された電話番号が例えばウエブページなどに掲載されたり、嫌がらせや脅迫等の行為に用いられたりするおそれ、また名誉毀損、プライバシー侵害などの被害者側が報復として加害者の電話番号を電子掲示板やSNSに拡散するということも考えられる、開示された発信者の側には有効な自衛手段が余りないとの指摘もありました。

 そこで、本改正案の第七条について聞きます。第七条では、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならないと定めています。

 竹内局長、開示決定により開示された発信者情報がインターネット上に流出した場合、本法案ではどう対応しますか。また、開示された特定情報を、開示請求した当事者の友人、知人、親族等がインターネット上に流出させた場合にはどの法律が対応することになりますか。

 

【竹内芳明総務省総合通信基盤局長】

 本改正法の第七条は、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない旨を定めております。これは民事上の義務を定めた趣旨であり、この規定に従わない情報の用い方をして発信者に損害が発生した場合には、民法上、プライバシー侵害等の不法行為を構成することとなり、発信者から責任を追及されることとなります。

 したがって、開示決定により開示された発信者情報がインターネット上に流出したことにより発信者に損害が発生した場合には、その流出をさせた者に民法上の不法行為が成立することとなります。流出させた者が開示請求者でなく、その友人等であっても同様でございます。

 

【伊藤岳参議院議員】

 安心して誰もがアクセスができ、発信できる社会にするために更に検討が深められることを期待をしたいと思います。批判的言論威圧の道具たるスラップ訴訟を防ぐ手だても課題となっております。匿名で投稿される心ない言葉に苦しむケースだけではなくて、匿名表現の中には、消費者による企業の商品、サービスに対する口コミなど正当な批判、また従業員による企業内不正の告発などもあると思います。お金のある企業や、またお金のある団体が、自身に対するこうした批判的活動を封じ込めるために、発信者情報開示請求を悪用、濫用するなどがあってはならないと思います。

 古川政務官にお聞きします。スラップ訴訟、このスラップ訴訟について、本改正案により創設される非訟手続において、発信者情報開示請求を行いやすくする仕組みが悪用される、この危険についてどのように認識しているか、どのように対応していますか。

 

【古川康総務大臣政務官】

 確かに委員御指摘のように、発信者情報開示請求を行いやすくする仕組みが今回つくられようとしているわけでございます。

 一方で、現行法では、開示請求における開示の判断の要件として、開示請求者の権利が侵害されたことが明らかであることを求めておりますが、このことは、この今回の本改正で導入される非訟手続におきましても、この開示の要件に変更はございません。

 これは、発信者情報の開示が発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密という重大な権利利益に関する問題である上、その性質上、一旦開示されてしまうとその原状回復は困難であることから、安易に開示が行われることがないようにするためでございます。したがいまして、本改正によって、濫用的な開示請求により不当な開示が行われるようになるものではないと考えているところでございます。また、手続上も、異議の訴訟が提起されない場合などにおきましては、この終局決定に確定判決と同一の効力が付与されることになっております。言わば、既判力が認められるということになります。これにより、紛争の蒸し返しが防止できますので、この改正によりまして開示請求の濫用が生じるとは考えていないところでございます。

 

【伊藤岳参議院議員】

 本法案の第十四条では、裁判所の決定に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から一か月の期間内に異議の訴えを提起することができると定めております。憲法で定められた、裁判を受ける権利を保障するものとされています。SNSにおける正当な批判や告発を萎縮させてはならないということを改めて強調しておきたいと思います。

 法務省人権擁護局長にもおいでいただきました。法務省にお聞きします。インターネット上での誹謗中傷対策は、ネットモラルの理解促進、相談窓口などの周知も重要だと思います。人権擁護局では、啓発や周知に取り組んでおられますが、二〇二〇年九月の政策パッケージにおける法務省としてのネット中傷防止の対応方針を示してください。

 

【菊池浩法務省人権擁護局長】

 お答えいたします。インターネット上の誹謗中傷の問題について、法務省の人権擁護機関では、個別の事案に対する人権相談や人権侵犯事件としての調査、救済に加え、社会一般に対する啓発活動を行っております。委員御指摘の総務省の政策パッケージの中においても、法務省に関わるものとして、ユーザーにとって分かりやすい相談窓口の案内、プラットフォーム事業者等との連携推進、事業者団体と共同した啓発の取組が挙げられているところであります。

 そこで、法務省におきましては、総務省等と連携して、被害者がどのような相談窓口を活用すればよいのかを分かりやすく整理した上で周知するとともに、法務省の人権擁護機関が行う削除要請の実効性を高めるため、総務省とともにプロバイダー事業者等との意見交換の場となる実務者検討会を継続的に開催し、さらに、人権啓発活動の一環として、総務省及びSNS事業者団体と連携して、SNS利用に関する人権啓発サイトを開設するなどしております。また、このほかにも、本年三月四日にインターネット上の人権侵害に関する人権シンポジウムを開催するなどしております。今後は、これらの取組に加えまして、個々のSNS事業者と連携した啓発活動であるとか、あるいはプロスポーツの団体と連携した啓発活動を行うことを検討しております。

 法務省といたしましては、今後とも、これらの取組を通じて、インターネット上の誹謗中傷の問題に対してしっかりと取り組んでまいりたいと考えております。

 

【伊藤岳参議院議員】

 武田大臣に伺います。他の省庁と連携をし、二〇二〇年九月の政策パッケージの実行とともに、被害者救済の状況調査を更に進めてほしいと思います。今後の見直し方針ですとか認識を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。

 

【武田良太総務大臣】

 インターネット上の誹謗中傷対策について、総務省では、昨年九月策定した政策パッケージに基づく取組を実施をしております。御指摘のインターネット上の誹謗中傷に関わる被害者の救済状況については、違法・有害情報相談センターにおける相談件数や、法務省の人権擁護機関による削除要請件数や、削除対応率について調査を行い、本年二月に有識者会議に報告を行ったところであります。有識者会議においては、これらの報告も踏まえ、プラットフォーム事業者の取組についてヒアリングを行っていただいたところであり、今後、夏頃までにこうした事業者の取組の効果検証を行っていただく予定であります。

 総務省としては、効果検証の結果などを踏まえ、被害者の救済が進むよう、適切な対応を検討してまいりたいと考えております。

 

【伊藤岳参議院議員】

 インターネットの技術の革新に伴い、インターネット上の誹謗中傷、人権侵害情報の対応の変化が想定されます。今後も、調査検討を続け、必要があれば改善し、迅速に被害者救済を図るよう努力を求めて、質問を終わります。