議事録

2021年4月14日 国際経済・外交に関する調査会(我が国が海洋立国として国際社会を牽引するための取組と役割〈海洋の安全確保に受けた課題と取組〉)

【伊藤岳参議院議員】

 日本共産党の伊藤岳です。参考人の皆さん、今日は貴重な御意見をいただき、ありがとうございました。

 尖閣諸島をめぐる中国の覇権主義的な行動は、国際法から見ても決して許されるものではないと我が党も繰り返し主張してきました。領土に関する紛争問題の解決において軍事対軍事で対応することは悪循環をもたらすだけであり、国際法にのっとって外交的、平和的解決に力を尽くすことが何より重要だと考えます。

 那覇市議会で次のような意見書が採択、全会一致で採択されたそうです。中華人民共和国の海警法施行に対する適切な対応を政府に求める意見書です。

 この意見書の中では、尖閣諸島接続水域における中国公船の領海侵入は八十八隻に上り、那覇市、沖縄県の漁業者を始め、日本の漁業者が安心して操業できない極めて憂慮すべき事態だと訴えています。そして、中国の海警法は、領海において沿岸国が強制措置をとることを限定的に認めている国連海洋法条約の原則を大きく逸脱すると批判をし、日本政府に対しては、中国政府に対して国連憲章と国際法の遵守を求め、国際社会と連携し、平和、外交的に問題解決を図ることなどを強く求めています。

 そこで、小谷参考人に伺いたいと思います。この那覇市議会の意見書も求めるように、重要なことは、国連海洋法条約などの国際法に基づく批判であり、国連憲章と国際法を遵守せよと国際社会と連携をして中国に迫っていくということが大事だと思いますが、長年中国を見られてきて、この国際法で中国に迫るということが中国という国に与える効果というか、影響など、どのように思われていますでしょうか。

 

【小谷哲男日本国際問題研究所主任研究員】

 御質問ありがとうございます。これも大変難しい問題でありまして、やはり、我々と中国のその国際法に対するまず理解がかなり違うところがあるということがまず問題になってきます。先ほど、法の支配と法治という話がございましたけれども、中国の共産党は国際法よりも上に存在しているというのが中国の認識でありまして、通常であれば、どの政府であっても国際法の下にあるべきなんですけれども、そこの出だしがまず違いますので、国際法に基づいた対処を中国に求めても、なかなか効果が現れないというのが現実です。

 他方で、全く効果がないかといいますと、そうでもないということが言えます。例えば、二〇一六年、中比の間で南シナ海の仲裁判断が出て、中国の主張はほぼ全て否定をされたわけです。また、中国は、その仲裁判断を紙くずだと言って無視をしたわけですが、その後、九段線という言葉を公の場では使わなくなりました。これは、やはり九段線が仲裁判断で否定されたということを受けてのことであろうと思います。また、先ほど冒頭の発言でも申し上げたとおり、管轄水域が非常に過大に設定されているというのを日本側から懸念を伝えたところ、海警法の草案からそのものが消えて最終的な文面になったということもありますので、やはり国際的な評判というのを中国は気にしているということは間違いないと思いますので、言わば中国のこのメンツをうまく活用する形で中国の行動を少しでも変えさせる努力というのを地道に続けていくしかないのではないかというふうに考えています。

 

【伊藤岳参議院議員】

 国際的なメンツ、大事な御指摘だと思います。我が党も、二月十二日に国際法に違反した中国海警法施行に抗議をし、撤回を求める談話を発表しました。日本政府は、深刻な懸念、同法が国際法に違反する形で運用されることがあってはならないと表明するにとどまり、海警法自体が国際法違反であるということを批判をしていないと指摘をさせていただきました。そして、日本政府に対しては、海警法自体が国際法違反であることを厳しく批判し、その撤回を求める外交的対応を求めたところです。

 先ほど紹介した那覇市議会の意見書の中では、国際法違反の海警法なのに、日本政府の対応は、深刻な懸念、同法が国際法に違反する形で運用されることがあってはならないと表明するにとどまっていることを指摘をしています。当事者である日本政府が、歴史的にも国際的にも尖閣諸島が日本の領土であることを、中国に対しても国際社会に対しても道理を尽くしてしっかりと主張することが重要だと考えます。

 そこで、坂元参考人、向田参考人に伺いますが、日本の外交交渉の大前提として、歴史的にも国際的にも国際法的にも尖閣諸島が日本の領土であるということを中国と国際社会にしっかりと主張していくことが大事だと思いますが、日本政府の対応への意見も含めて御意見を聞かせていただければと思います。

 

【坂元茂樹神戸大学名誉教授】

 御質問ありがとうございました。まず、日本政府が深刻な懸念を表明するにとどまっていて、国際法違反とは言っていないということについて御質問ございましたけれども、この点は、国際法の世界では、国家機関は立法機関、執行機関、司法機関から成っているのは御案内のとおりなんですけれども、このような国家機関が国際法違反の行為を行えば国際違法行為となります。

 立法機関の行為が国際法に違反する場合というのは一体どういう場合かというと、立法機関が国際法に違反する国内立法を行った場合、今海警法ではそういうような主張を那覇市議会が行っている。もう一つは、国際法上義務付けられた立法を行うのを怠った場合という、この二つがあるわけですね。

 問題は、それによって何ら自国民の利益を害されない他の国が、当該国際法違反の国内立法を行った国の国際責任を追及することができるかというと、それは通常はできないということで、外務省辺りは、そこで実際に具体的な事件が発生したら中国に対して国際法違反だといって国際責任を追及するという姿勢で、今のような懸念の表明にとどまっているんだろうというふうに理解しています。

 ただ、私自身は少し別のことを考えています。どういうことかといいますと、今回の中国の海警法の曖昧な中国の管轄水域という表現によって、尖閣諸島周辺の日本の領海等で、日本の海保が懸命に漁民を守ろうとしても、中国海警の取締りを恐れて、沖縄の漁民が従来その海域で漁業を行っていたのに、その海域に出漁すれば中国海警による拿捕の危険性があり、そのため出漁を見合わせざるを得ないという、こういう状況に至った場合には、具体的に拿捕されるという事件が発生をしていなくても、出漁を見合わすという、そのことによって当該漁民は損害が発生をしているわけでありますから、その損害と国際法違反の国内法、中国海警法との間に因果関係が証明されるならば、国際法違反の国内法が施行されたことで、こうした事態が生じているんだとして中国の責任を追及するというのも可能性としてないわけではないということなんですね。

 それから、冒頭に申し上げましたけれども、中国は接続水域に海洋法条約に違反する安全に対する管轄権を行使することを許す領海法を制定をすると、その執行を担保する海警法が制定された。そうすると、外国の船舶が中国の接続水域の航行を回避するということになりますと、同水域における他の国の船舶の航行の自由は既に侵害されているということになる。ですから、具体的な損害が発生していなければならないと強調し過ぎることは、日本の立場として果たして適切かという問題意識は私の中にはあるということでございます。

 ただ、それからもう一つ、中国と国際法の向き合い方なんですけれども、我が国の憲法は、九十八条二項で、条約及び確立された国際法、これは慣習国際法を指しますけれども、これを誠実に遵守することを必要とするという規定を置いています。しかし、中国憲法には、国際法あるいは条約との関係を規定した条文はございません。ですから、中国は、国際法についてはケース・バイ・ケースで対応しているということでありまして、WTOのような場合には積極的に国内裁判所でこれを援用したりしております。これは、中国の最高人民法院の裁判官と一度お話ししたときに、そのような条文がないのにどうやって国際法の適用されているんですかというと、答えはケース・バイ・ケースというものでした。これが中国の国際法に対する姿勢ということであります。私からは以上です。

 

【伊藤岳参議院議員】

 向田さんにも聞きたかったんですが、時間との関係で大丈夫ですか。じゃ、短く、済みません、一言。

 

【向田昌幸元海上保安庁警備救難監】

 日経新聞のインタビュー記事にも書いておりますけれども、我が国政府、外交当局も、尖閣諸島は我が国固有の領土であり、国際法上も、歴史的にも我が国の固有の領土として、もう領有権を争うような問題は存在しないと、しかも現に有効に支配しているということをうたっているわけでございますが、果たしてその中国の領有権主張に対して国際社会はどう見ているのかと。ホームページはいろいろ外国語も含めて日本の主張は書いてあるわけですが、果たして、中国の主張と日本の主張、どっちがどうなんだというところは、国際社会の中には十分浸透していないんではないかと思います。

 それで、実は、非常に小さな字ではありますが、お配りしている、私が書いたメディアウオッチの中国海警法を踏まえた我が国の対応についてというところは、実は、中国の海警法について云々する前に、そういう中国側の攻勢に対して、元々尖閣問題は何かということを詳しく書いております。で、アメリカとの関係で申しますと、アメリカはニクソン政権のときに、領有権については、台湾や中国を踏まえまして、米国としては中立不関与という政策を取ったわけですね。どこの国に所属するかは各国の主張に、どこの国の主張にもくみしないという態度、現在もそれを踏襲しています。これは、裏を返せば、アメリカの姿勢はどうかということを客観的に見ますと、尖閣諸島は日本の固有の領土ではないということを暗に言っているようなものであります。

 そこらを踏まえて、尖閣問題の、尖閣問題をめぐる中国の攻勢をどうそぐかということは、その根も葉もない中国の主張なんだということを国内的にも国際社会に向かってももっと分かる形で主張していくべきだということが大事だと思っています。

 

【伊藤岳参議院議員】

ありがとうございました。